この夏いちばん見たかった映画だ。前作『大怪獣のあとしまつ』に続く今年2本目の三木聡監督作品。何をしても彼は変わらない。あの怪獣映画にがっかりした人たちはまるで三木聡のことを知らない人たちだろう。勘違いも甚だしい。まぁ、松竹・東映共同制作の大作映画を彼の任せたほうが悪いのだ。最初からあんな映画になることは必至だ。三木聡は妥協しないし、自分を曲げない。というか、自分の趣味で映画を作っている。自分のしたいようにしかしない。わがままといえばわがまま。でも、ただの趣味映画ではないことは見ればわかる。あの題材を彼が手掛けたなら当然あんな映画になるのだ。そんなこと最初からわかりきっていた話。でも、かなりの人が、がっかりしただろう。現に僕だって実はがっかりした。それはないだろ、とも思った。だけど、それがあるのが彼なのだ、とも思う。
さて、今回は自分のホームグランドに戻ってきての好き放題、である。さすがにあきれる。今回も。でも、楽しめる人は実に楽しいはずだ。なにがなんだかの脱力系不思議世界。何も考えずに自身の妄想世界をフル回転で展開する。やりたいほうだい。
主人公のふたりが素敵だ。だらしないし売れてない脚本家、成田凌と妖艶な人妻、前田敦子。ふたりが山中のコンビニで出会い、恋に落ちる。コンビニでジュースを収納した冷蔵庫を開くとその向こうの世界へとつながる。現実の彼は自主的に書いているオリジナル脚本を持ち込み売り込もうとしている。プロデューサーは彼の書いてきたプロットを受け入れ、至急台本にして持ってきて、という。そのプロデューサーをふせえりが演じる。それだけで嘘くさい。それに輪をかけて彼女の演技もいつも通り嘘くさい。近所のコンビニで買い物していて事故に遭う。なんと正面入り口に軽トラが突入。山中に犬を不法投棄しに行き、その帰りエンジンが故障して、こんな山の中になぜかぽつんと立つコンビニに行く。
お話はふたつのコンビニと、ふたつの世界を行き来する。簡単にいうと現実と妄想。でも、それらがごっちゃになっていて、いつのまにか両者は入り乱れてしまう。ストーリーには一貫性はない。紆余曲折が当たり前。どこから始まりどこに行きつくのかもどうでもいい。97分間。この異次元の世界をさ迷うばかり。こんなだらしのない映画はない。だから、楽しい。