『マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋』

　これは一見単純なメルヘンチックなファンタジー映画の装いをしながらも、その実、一筋縄ではいかないとても捻くれた映画である。ほのぼのとした心地よい感動なんて期待したら、がっかりさせられること必至だ。いったいなんなんだ、と腹を立てる人も多いはず。

　しかし、それはこの映画が不出来だからではない。また、パッケージングと現実の映画との落差は宣伝のせいではない。これはこの作者が確信犯的にそこを狙っているわけで、観客をこの映画で素直に感動させる気なんて彼にはない。これはあの『主人公は僕だった』の脚本を書いたザック・ヘルムの監督デビュー作である。

　２４３歳のマゴリアムおじさん（ダスティン・ホフマン）は、天寿を全うして消えてしまうことになる。（死ぬ、とは言わない）彼のおもちゃ屋は、ナタリー・ポートマンが引き継ぐことになるが、彼女には自信がない。このおもちゃ屋はマゴリアムおじさんの魔法の力によってこんなにも素敵な店として機能していたのに、ただの女の子である彼女が経営するなんて不可能なのだ。

　現実世界を生きている普通の人間である僕たちには、魔法なんて使えるわけがない。この当たり前のことを、この映画は徹底的に見せていく。チラシには「自分のこと、信じなきゃ、ね。」なんていうコピー文が載せてあるけど、自信を持ったなら、魔法使いになれる、なんてありえない。だから、マゴニアムが死んだ後の映画の後半はとても暗い。（もちろん、そのまま終わるわけないが）この暗さを延々見せていくことにこの映画のテーマが隠されている、なんて言うと穿ちすぎか。

　ナタリーが徹底的に叩きのめされていく。だいたい、おもちゃたちは、マゴリアムが居なくなるということを仄めかしたあたりから、反発のレジスタンスを繰り広げていく始末だ。死んだ後は、もうおもちゃたちはモノクロームと化し動かなくなる。

　この話をファンタジーとせず、けっこうリアルに見せたりしたら、そりゃ暗い映画なったとしても仕方ないだろう。『主人公は僕だった』同様ありえない設定を用意して、でも、それを現実として認めるところから、彼らがどう生きていくかが、描かれる。