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映画・演劇のレビュー

『眉山』

2008-02-10 18:43:11 | 映画
 犬童一心監督の作品はすべてリアルタイムで劇場で見てきたのに、これだけは公開から半年以上も遅れてDVDで見ることになった。なんだか食指がそそられなかったのだ。

 同時期公開の松岡錠司監督の『東京タワー オカンとボクと、ときどきオトン』が、あまりに素晴らしすぎて、この手の母子ものはもういいかな、なんて思ったことも事実だろう。しかし、それ以上に、さだまさし原作で、母と娘の和解を描くこの映画の中に、どうしよもないユルさを感じたのも事実なのだ。

 犬童一心だからつまらない映画を作るわけがない、とは思ったがこの素材から、どこをどう料理しようとするのか、という彼なりの視点が見えてこない気がした。今、ようやくこの映画に接して、やっぱり僕の嫌な予感は、見事に的中していた。まぁ、それもなんだか、だが。

 情感に流されるだけで、映画としての訴求力の弱いものになってしまうのがさだまさし原作の特徴で、それはもちろん原作が悪いのか、あくまでも監督の問題なのか、よくわからない。磯村一路をしても失敗作にしかならなかった『解夏』の例を引くまでもなく、今回もまた、お話の弱さがまずポイントである。それを補強するだけのアイデアが欲しい。『眉山』にもそれがない。

 松島菜々子演じる主人公は30代の独身。東京でひとり暮らし。バリバリ仕事をこなす。恋人はいない。彼女がどんな気持ちを抱いて日々を生きているのか、今の心境がもう少し見えてこなくては話に入れない。今回の母親(宮本信子)の病気とどう連動していくのかが、この映画の大事な眼目となる。今の揺れる気持ちが母の死の病を知ったことでどう動くのか。

 今まで一度として会ったこともない父親に会いに行くこと。母が死んでいくこと。そのことで、たったひとりになることの恐怖。さらには、母の病院で出会った医師(大沢たかお)との交際を通して彼女はどう変わっていくことになるのか。死んだと聞かされていた父の存在を認めることの意味。生きていく上で何が必要か、ということ。そういう彼女の中での変化をこの映画は捉え切れてない。ただ、おきまりのストーリーを追っただけの映画になってしまっているのだ。

 阿波踊りの場面もそれがただの見せ場でしかないから、つまらない。あの『ジョゼと虎と魚たち』の犬童一心である。彼がこんなルーティンワークをしてしまうなんて、確かに目撃した今でも信じられない。

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