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映画・演劇のレビュー

『花の生涯 梅蘭芳』

2010-02-08 18:44:43 | 映画
 チェン・カイコー監督の最新作である。昨年3月公開され、ずっと待っていたのだが、ようやくDVDになったので、見た。(劇場でさっさと見たかったのだが、これもいつものことながら、すぐに上映が終了し、見逃したのだ)

 これは『さらば、わが愛 覇王別姫』に続く京劇を舞台にした映画だが、前半のレオン・ライが出てくるまでがすばらしい。青年時代の梅蘭芳を描く部分だ。京劇の世界を正面から描き、感動的だった。師匠との対決を描くクライマックスの寂しさ。見事としか言いようがない。

 なのに、主人公が大人になり、レオン・ライが演じ始めると、なんだか、映画はパワーダウンする。ほんとならここからがこの映画の本題のはずなのに。京劇の話から、その周辺も視野に入れ、さらには政治状況までもが、描かれていく中、梅蘭芳の生涯を描くだけに、ただの大河ドラマと化す。こういうのはもう見飽きた、偉人伝とか見たくもない。まぁ、つまらないわけではないから、退屈せずに見れるのは確かだ。でも、チャン・ツィイーとの、恋愛物になり下がるのはいただけないし、更には、日本軍に利用され、それでも自分を曲げない不屈の男の話なんかになり果て、なんかそれは違うのではないか、と思う。大恐慌下のアメリカに渡り、京劇をニューヨーカーに見せようとする話までは、なんとかついていけたが、それすら僕にはつまらない。

 京劇に魅かれ、自分のすべてを投げ出してのめり込んでいく。そこを追いつめて欲しかった。歴史的事実なんか、どうでもよい。京劇に中国人がなぜここまで熱狂するのか。それを青年になった梅蘭芳(ユィ・シャオチュン)と彼と行動を共にすることとなるチウ・ルーパイ(スン・ホンレイ)を通して描いて欲しかったのだ。前半は確かにそういう話だったんだ。師匠との対決の場面の無情さはこの映画の白眉だ。彼らが従来の京劇に疑問を抱き、表現を突き詰めることで京劇の新しい可能性を見出していこうとするドラマがおもしろいのである。なのに、主人公がレオン・ライになったとたん、その方向が断たれる。先にも書いたが、わずかに、ニューヨークのシーンにその片鱗が残るが、それも簡単に流されていく。

 青年時代の純粋さが大人になり奪われていくというわけではない。何が彼を変えて行ったのか、それだけでも描かれたなら納得もいこうが、これでは無理だ。映画自体の方向性がゆがめられていく感じだ。京劇という表現についてのドラマが俗なメロドラマにスライドしていき、気がつけば京劇なんてどうでもよくなっている。そんな気にすらさせられる。

 それでも最近見た映画ではこれが断トツで面白い。それは事実なのだが、それだけに後半の展開に問題を感じざる得ない。

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