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映画・演劇のレビュー

あさのあつこ『夜のだれかの玩具箱』

2010-02-08 19:21:08 | その他
 6つの短編からなる連作作品。かって子供だった僕たちを、異界に誘い込み、そこで今と向き合わせる。基本コンセプトはそんな感じか。1話と6話が繋がっていて、その間に挟まれる4篇はコンセプト以外に接点はない。時代劇から、現代劇まで、まるで傾向の違う話がランダムに放り込まれている。幻想的な話になるという部分は共通するが、その展開のさせかたは千差万別だ。寓話とか、民話とか、語り口の多様さは作者の引き出しの多さを指し示す。

 でも、器用すぎて、損をしている。そのせいでこの小説全体のイメージが伝わらない。特に時代物となった3,5話(『恋女房』『蛍女』)は異質すぎる。わざとそんなふうにしているのは充分理解出来るのだが、読んでいて違和感は拭い去れない。だいたい2話(『うちの猫は鼠を捕りません』)だって、ちょっとしたショートショートでしかない。オチがつまらない。唯一、4話『お花見しましょう』はよく出来ていた。これのような出来の作品を途中に挿入するのなら納得がいったのだが。

 結局、1話(『仕舞い夏の海』),6話(『もう一度さようなら』)である。この2作がすばらしい。だから、全体もこのラインで全体をまとめたほうがよかったのではないか。

 この2話のリンクのさせ方は単純だが、胸に痛い。父の話と、娘の話がひとつになったとき、感動的な幕切れが用意されることとなる。子供の頃の記憶が、今を呼び覚ます。『今』をちゃんと生きなくては意味がない。自分たちの『今』と向き合うための記憶への旅、というコンセプトがしっかり生きてくる。娘の雛子を主人公にしながら、最後の最後で彼女の夫である修一にスライドさせ終わる6話のラストは特にすばらしい。


 

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