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今回の寺地はるなにはあまり乗れない。読んでいてなんだかいつまでももどかしさが続く。カタルシスがない。それは主人公である茉子も同じ想いだろう。彼女が再就職したのは古い体質の残る小さな製菓会社。そこでは従来通りがまかり通る。なんとかして変えたいと思うけど、ままならない。
出てくる人たちがみんなもどかしい。自分の本音を言わないで、生きている。そんな中で茉子ははっきりと言う。だけど、みんなから迷惑がられる。だからといって彼女が正しいというわけではない。彼女が前の会社を辞めたのはパワハラを受けていた同僚である後輩を守れなかったから。守れないどころか、彼女の弱さのせいにした。自分の視点からしか考えられなかった。自分には出来ても、他人には出来ないこともある。そんな当たり前のことがわからなかった。
コネ入社といわれ、(たしかに親戚の会社だけど)不当な扱いを受けるけど我慢して働いている。理不尽がまかり通る会社で、従兄の新社長も頼りない。上手く周りに馴染めない。
イライラしながら読み進める。だが、ラストの展開で明らかになる。これはよくある心地よいだけの小説ではなく、みんながそれぞれの生活の中で戦っていることを描く作品。それに気づく。パワハラ社員江島さんの認知症の母のエピソードからラストまで圧巻。今回の寺地はるなの意図がそこからようやくはっきりとする。はっきりしたところからは一気に読ませる。最終的にはやはりいつも通り素晴らしい作品だった。