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映画・演劇のレビュー

ジャブジャブサーキット『河童橋の魔女』

2009-06-29 23:11:19 | 演劇
 小劇場の舞台としてはとても広いアイホールを使っているにも関わらず、ほんの少しだが、わざと空間を狭く使っている。はせさんはこの劇場で公演をするときにはいつも空間の広さを最大限に使うような演出をしてきた。基本的には四方囲み舞台だった。だが、今回はそうしない。しかも、天井のライトをかなり下にまで落としているし、舞台の両サイドもいっぱいいっぱいは使わない。背後の壁の奥には、緑の木々が仕込んであるし、客席もコンパクトにまとめてある。

 だが、舞台が特別狭いというのではない。河童橋ホテルのフロントロビーはゆったりしている。何の変哲もない。そこに客がやってきたり、泊まり客が降りてきたりする。本来なら開かれた広い空間を、ほんの少し小さく作ることで空間自体の中に芝居がはめ込まれたような印象を与える。そのことでこの閉じられた空間は際だつ。この空間の外に本来あるはずの広い世界が隠されている。そんな印象を与えるような舞台空間設定がなされる。アイホールを使って客席も含めて入れ子状態の空間を作り、このホテルの微妙にねじれた空間を造形する。この空間自体がフェイクであるかのような印象を与えるのだ。


 芝居自体もバランスを崩している。わざと理に落ちないような作り方をしている。妖怪の出てくるようなお話なので、理路整然とした整合性は不要なのだといえばそれまでなのだが、はせさんのことだから、最後にはきちんとつじつまがあうとうにするのが、常だ。だけど、今回はほんの少しバランスがとれていない。とれていないのではなく、とることを拒否してしまったみたいだ。芝居の落としどころもかなり微妙だ。どこで終わってもおかしくないけど、そこで終わられたなら、少し危うい、と、そんなところで終わっていく。居心地が悪い。

 妖怪たちが見える、見えないという境界線についてもルールがありそうで、ない。ルールを破っているのではなく、そんなに厳密なものではない、という程度なのだ。ストーリーの作り方もそうだ。きちんとした整合性を用意しているのに、そこにこだわらない。

 森の魔物たち。死に近づいている人たちにしか近寄れないホテル。ホテルの支配人が人と魔物とのハーフであること。彼が魔女と町に出ていくこと。そんなひとつひとつのエピソードが、ほんの少し歪になっていて、きちんと全体の中に収まりきらない。そこに作り手のほんの少しの悪意のようなものを感じる。それがこの芝居の不思議なテイストを形作る。居心地の悪さ、気味の悪さがなぜか気持ちいい。

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