1時間15分ほどの短い芝居だ。だけど、この静謐を湛えた程よい緊張感が心地よい。闇の中に浮かび上がるほんの少しの灯り。誰かがそこにいる。小さくなって蹲るようにして、そこにいる。視界は狭い。観客である僕たちの視線は彼女の手元に集中する。何がそこにあるのか。何が起きようとしているのか、注目する。だが、なかなかそこからお話は展開していこうとしない。なかなか明るくもならない。
その先も同様。徒に時は過ぎていく。彼女の顔や姿は明瞭にはならない。お話にもならない。薄暗い中で、たたずむ。うずくまる。誰かが来る。白い女は何者なのか。わからないまま、ことばを交わす。いなくなる。そこが居酒屋のかたすみで、店主がやってきて、店を開ける。のれんを出し、カウンターから声をかける。お客がやってくる。だが、彼女は以前うずくまったままだ。
時間が過ぎる。ここはお店の中だが、店はもう営業していない。夜の、廃墟となった、ここで、ひとり。時は経つ。どれくらい経ったものか。女はやってきた。おかみも来た。やがて娘がやってきて。彼女たちは何なのか。うずくまる女とどういう関係なのか。
ここは町のかたすみ。忘れられたような場所。毎夜そこにやってくる酔客。どこにでもあるようなたぬきの置物。記憶のかたすみ。もうここは廃墟ですべては幻で、やがてここは取り壊され、今はその直前で、とか、そんなこんなの説明はいらない。(もちろん、していないけど)このたださみしいだけの風景に魅了される。それだけで充分。