『岬の兄妹』の片山慎三監督の商業映画デビュー作だ。強烈で鮮烈なデビューとなった『岬の兄妹』のテイストを保持したまま、商業映画としてエンタメ的な見せ方もちゃんと施した上て、堂々たる2時間の映画を作り上げた。立派だ。伊藤蒼は前作『空白』の万引き少女から、今回は万引きする父親の引き取りに行く娘を演じる。たまたまだろうけど、2作品連続で映画の冒頭でスーパーでの万引きって、どうよ、と思う。笑うところではないけど、笑ってしまった。父親は情けない男を演じさせたら日本一の佐藤二朗である。
この後すぐ、彼は失踪し、残された娘が父親を捜すというお話の本題に突入する。やがて、父親と同姓同名の男を見つける。映画はこの3人の話だ。よくあるサスペンス・ミステリーだろう。それを片山テイストで見せていくのだけど、よくできた映画かもしれないが僕は前作同様あまり好きではない。何がダメなのだろうかと思いつつ、スクリーンを凝視していた。それなりの緊張感の持続はある。だけど、なんともいいようのない不快感もある。そこが彼の持ち味だと肯定できない。映画は大阪の西成を舞台にした。その猥雑な空気感が嫌なのではない。わざとらしい大阪、とも思わない。だけど、なんかいや。3部構成で娘、犯人、父親と3つの視点からこの事件が描かれていくのだが、バランス感覚がよくない。3か月前、13か月前と遡っていく構成もなんだかもたもたしている。
お話自体もなんだか穴だらけで、突っ込みどころ満載だ。警察はそこまでバカではないと思う。連続殺人犯をあんなにも簡単に見逃すまい。杜撰な父親の犯罪すら見破れないなんておかしい。島で老人を殺した後、その家を自分が自由に使うなんて不可能ではないか。田舎の島の住人たちが怪しまないはずはない。お話自体が穴だらけで、残酷なシーンも嫌だし、まとまりもない。ラストの延々と続くふたりの卓球シーンも僕にはただの冗長としか思えなかった。