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映画・演劇のレビュー

Ugly duckling 『ト②ランク』

2009-03-02 19:46:07 | 演劇
 2本目はオーソドックスな芝居の作り方で見せる。サイレント・カフェという喫茶店。閉店30分前にやってきた女。カフェのオーナーと彼女とのやり取りで見せる2人芝居。吉川貴子さんと山田一幸さんである。『100年トランク』のサンズを主人公にした1篇。

 本編では語られなかったバラバラ死体になる前のサンズのお話を凝縮された時間の中でさらりと見せる。ワン・エピソード読みきりとして完結する。とは言え、これだけでサンズという女もすべてが見えるわけではない。しかし、ここには彼女が切り刻まれる直前の時間がしっかり刻印されている。あの事件の1日前ということは知らなくてもいいし、知ればそれはそれで興味深い。芝居の冒頭にはちゃんと『100年トランク』の彼女の印象的なエピソードが映像として披露される。

 この短編から彼女の生活の一端が鮮やかに見えてくる。直接的な描写はない。だがここで話すなんでもないことからこの少女がどんな人間なのかが鮮烈に伝わるのだ。人の心が読めるエスパーであるという設定は少しも突飛ではないし、SF的でもない。ただ彼女が人よりも繊細で過敏なだけのことだ。彼女の家庭環境や毎日の生活が垣間見えるが、それは想像の範疇でしかない。ストーリーを描くのではなく、ピン・ポイントで30分の見知らぬもの同士の一瞬のすれ違いを見せる樋口さんの台本の語り口は鮮やかだ。それを丹念に演出した池田さんの手腕も光る。とてもウエル・メイドな小品として仕上がった。

 何かの予感をストーリーとは違う雰囲気のみで象徴的に見せた『ト①ランク』とは全く違うアプローチで描かれた本作は今回の5部作の方向性を見事に指し示すこととなった。全く別のベクトルを示す5つのエピソードが『100年トランク』という作品と絡み合ってみせるアラベスクはまだ始まったばかりだ。

 山田一幸さんの落ち着いた受けの芝居と吉川さんのエキセントリックな芝居がきちんとマッチして、それを包み込むように案内人であるイシダトウショウさんの年老いたトラが静かにテーブルのかたすみについている。この構図がいい。実際のカフェであるこの会場、ジャン・トゥトゥクーをそのままに使ったこの芝居は、無理なく視覚的にも美しい空間を提示する。

 サンズの満たされぬ想いがこの小さな作品には溢れている。たくさんの洋服を買っても満たされない。カフェにそれを広げて店いっぱいにしていけば、していくだけ彼女の空虚が堰を切ったように広がる。埋めることの出来ない孤独がここには溢れていく。

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