期待の一作だったのだが、残念な仕上がりだ。これは宇宙版『地獄の黙示録』である。そして、これは象徴としての父ではなく実際の父を捜す旅。でも、父(トミー・リー・ジョーンズだ!)はカーツにつながるのだから、ここには狂気がなくてはならない。父親はなぜ行方不明になったのか。海王星で何があったのか。主人公がこのミッションをどう受け止め遂行するのか。それを世界は(政府は)どう受け止めるか。そういうドラマの背景となる世界観の形成が中途半端なので、見ていて、驚きがない。要するにお話自体の底が浅すぎるから途中から退屈してくるのだ。ここに描かれるのは狂気がなく、冷静で、それはそれでいいのだけれども、でもそれが凡百なものになるのでは意味がない。
せめてブラピ演じる主人公のクールな視線がもっと徹底していて、それがラストまで貫かれていたならもう少し面白い映画になったのかもしれない。父との確執も、ただ彼の個人的なことではなく、仕事として受け止めるレベルのものとの狭間でどう変化していくのか、とか、そんなスリリングに描くべきものがちゃんと描き切れてはいないのだからつまらない。個人と公人とのはざまでこの世界がどうなっていて、どこに向かおうとしているのか。それが行方不明になった意味のつながらなくてはつまらない。なぜ、父は連絡を絶ったのか。彼の想いと息子ブラピの想いが交錯するとき、答えが見えてくる、というパターンでいいのだから、そこに明確な、あるいは、衝撃的な答えを用意して欲しい。
人類が簡単に月へと旅行できる時代を背景にして、火星、海王星へと人類がフィールドを広げていくなかで、人は何を失い、何を手にするのか。そこをちゃんと描いて欲しかった。