高橋弘希『日曜日の人々』他
なんだかのんびりしていて牧歌的なタイトルだが、実際はとてもキツい話だ。自殺サークルのお話。そこは、日曜日に集まってそれぞれが自分の抱える問題を話す自助団体なのだが、結果的にここからたくさんの自殺者を出すことになる。
恋人で、従姉の自殺。主人公は、彼女の死の秘密を知りたくて彼女が所属していたこのサークルに入会する。彼女の残した遺稿を読みたくて。だが、気付くとここで出会った人たちに心惹かれていく。自分もまた死の世界へと誘われていく。誰だって好きで死を望むわけではない。毎週日曜日に出かけていく。みんなで顔を合わせて、語り合う。まるでとても健全な集まりのようで。でも、みんな心に闇を抱えてもがきながら生きている。
静かなタッチで、どんどん読ませていく。特別な展開があるわけではないのに、ここから目が離せない。ストーリーで見せるのではなく、そんな彼らの日常のスケッチだけで見せきる。淡々とした描写がこんなにも刺激的で、あっけないラストも余韻を残す。終盤の展開にはいくぶんもの足りなさはあるけど、それでもそんなこともまたこの作品の魅力か。
久々に読んだ戌井昭人の新刊『ゼンマイ』もあり得ない話なのだけど、目が離せない。これもまた、淡々としたタッチで男ふたりのモロッコ旅行を描く。昔付き合っていた女の消息を辿ってこんなところまでやってくる。昔付き合った魔術団の女。彼女は体を小さくすることが出来る。人生の終末を迎えたとき、若かった頃のそんな不思議な女のことが気になり、旅に出る。彼女からもらったゼンマイのおかげで今まで生きてこられたし、人生を上手く渡ることが出来た。ゼンマイが彼を生き長らえさせてくれた。これも、もう少し読みたい、と思うところであっけなく終わる。
こちらもまた久々に読んだ重松清の小説は『たんぽぽ団地』。2015年の作品なので、最新刊ではないけど、まだ新しい。相変わらず、甘いし、お話としては緩いけど、とても懐かしい空気の作品だ。
1960年代の後半から70年代の頃。千里ニュータウンに住む、叔父さん、伯母さんたちの家に家族でよく行った。父親の姉弟が住んでいたからだ。あの頃の千里は夢のような場所だった。万博前後の頃、だからこの小説の子供たちよりちょっとだけ年上の僕は、ピカピカだった団地をよく知っている。黄昏の団地の風景を描いた映画はたくさんある。この小説もまた、その系列にある。中村義洋監督の傑作『みなさん、さようなら』には及ばないけど、失われていく団地へのレクイエムとして、この小説は心のかたすみに響いてくる。これは現代と1973年をつないだ、ここで暮らした全ての人たちに向けてのメッセージだ。