3週間ぶりの芝居だ。とてもうれしい。しかも昔何度か見て好きだったこの作品である。久しぶりに再見できる。さらには演出が虚空旅団の高橋恵さんだ。彼女がこういうタイプの芝居を器用にこなすとは思えない。だから、反対に期待が高まる。この難しい題材と向き合い、勝算もなく引き受けまい。今までの彼女の芝居とはまるで違う新境地を見せてくれることは確信できる。期待しないはずはない。ワクワクするではないか。
こういう大人の芝居をどんなふうにリアルに見せてくれるのか。ある種のファンタジーとして提示するのは簡単だろう。だってこれは夢物語だ。現実にこんな話が成り立つならば鼻白む。そんな都合のいい関係が上手くいくわけはあるまい。彼らふたりに感情移入できないはずだ。だけどファンタジーとしてならこんな夢を見てもいい。だけど高橋さんはリアリストだから、甘くて嘘くさい芝居にはしない。じゃぁ、どんな芝居になるのか。気になるではないか。切り口をどこに設定し、それをいかにして納得のいくものとして提示できるのか。そこが勝敗の分かれ目になることだろう。
2部構成2時間20分に及ぶ作品だ。2幕6場。ワンエピソード20分ほど。とてもテンポがいい。劇場はスペース9なのに、思い切って使った広い舞台も心地よい。大きなベッドとゆったりした空間はこの芝居には必須の条件だ。1年に一度ここに集い、1夜を共にする男女の物語。この場所が心地よい空間でなくては成り立たない。そこを貧乏くさくすると、それだけで嘘になる。
登場人物はふたりだけ。ふたりの姿、そこで繰り広げる会話から25年に及ぶ歳月の経過を表現することになる。5年ごとの歳月の経過をしっかり表現しながら、変わるものと変わらない想いがきちんと描かれなくてはならない。ここには不在の、ふたりのそれぞれの配偶者や子供たちという背景となる家族のことが、そこで描かれる。普通ならそこは避けて通るところかもしれない。だけど、彼らにとってはそれがルールだ。台本の設定がじつにうまい。演出や役者はそこを踏まえてその先へとどういうふうに行きつくのかがポイントになる。
想像通りの展開だった。彼らの生活感がしっかりと伝わってくる芝居になっていた。単なるメルヘンではなく、でも、この夢の時間をきちんと描くことで舞台上では描かれることのない1年のほかの時間までちゃんと感じ取れる作品になっている。ちゃんととてもリアルなのだ。
演じるふたり、中村なる美と前田晃男がいい。そこにはわざとらしさはない。彼らの人柄がしっかり伝わってくるから、このお話を素直に受け入れられる。至福の2時間20分だ。そこにはちゃんと人生の夢が描かれてある。