こんなB級映画を今更見てどうするつもりか、と思う。これは2年前劇場で見ていた映画だ。見た、ではなく「見ていた」である。正確には10分だけ見て劇場から出たから、見逃した映画ということになる。何もこんな映画のために、母の最期に会えなかったなんて、と思わないわけではない。
あの日、病院から電話があった時、僕は映画館にいた。それまで全く音沙汰がない病院からいきなり電話がかかった。その日は一日中映画を見る予定ですでに3本分のチケットを購入済。1本目を見た後、携帯の電源を入れたら留守電が入っていたから慌ててコールバックした。「お母さんの容態があまりよくないです。また、連絡します」と医者が言う。焦ったが、どうしようもない。面会謝絶だから、病院にも行けないし、連絡を待つしかない。映画どころの話ではない。だけど、仕方ないから電源を入れたまま、2本目の映画を見始めた。それが
『アオラレ』だったのだ。これは3本目に見る目的の映画までの時間潰しでしかないそんな映画だった。
映画が始まり、しばらくしたら携帯が鳴った。慌てて劇場ロビーに出た。いきなり「お母さんが危篤です。すぐに来てください」と言われて狼狽える。全速力で駆けつけた。あんまりな話じゃないか、と思った。いくらなんでも惨すぎる、と思った。
その後のことはあまり思い出したくはない。病院の対応をなじる気はない。肺炎を併発して突然のことで、という医者の言葉なんかどうでもいい。なんでこんなに急なのか、とショックだった。死に目には間に合わなかった。電話からたった30分で駆けつけたのに、である。死ぬほど必死になって行った病院の玄関先で「体温が高いからしばらくは入らないでください」と止められた。当たり前ではないか!炎天下凄いスピードで走って来て、体温が低かったら、反対に驚くよ。いいかげんにしてくれ、と思った。
病室に入ったとき、変わり果てた母の姿を見た時、もう何も信じないと思った。コロナ禍で面会謝絶だったから、病院に行っても会えなかった。死んだから逢えたのか? 誰が殺した? いろいろ腹が立つことはあったけど、いまさらどうしようもない。2021年、6月7日に話だ。あれからもうすぐ2年になる。
今日たまたまAmazonプライムでこの映画を見つけて、見ることにした。劇場で見たシーンまで、ちゃんと覚えたいる。その後の見るはずだったシーンも含めて最後まで見た。
まさか、ここまで書いて、ここから映画の感想など書ける気がしない。(書けるけど)書かない(わけにはいかないから、少し書くね)。
映画は悪くない。いや、なかなかよく出来ている。当時流行り(?)だったあおり運転から始まる恐怖が描かれる。スピルバーグのデビュー作『激突!』を想起させる映画だ。ラッセル・クロウがデブデブになって(ブレンダン・フレイザーか!)理不尽なアオリをする。たった90分のサスペンス・ホラー。