阪本順治監督最新作。伊藤健太郎主演。この組み合わせに期待は高まる。前作も期待した。あれは豊川悦治主演のプライベート映画だった。作品自体は(僕は)納得がいかない出来だと思ったが、妥協を許さない阪本監督の姿勢は好きだ。自分がやりたいことをやりきる。商業主義の映画ではないけど、自己満足のアート映画でもない。だいたいあんな企画を通してしまい実現させるなんて、他の誰にできるか。彼だからこそ可能だったのではないか。興行的には惨敗だっただろうけど、本人は納得の作品だったはずだ。
そこで、本作である。こんな地味な映画が作られるのか、と今回も驚く。だけど、今回は僕も納得のいく作品だったから、うれしい。(ただの観客だから、自分さえよければいいんだ!でも、誰もが納得のいく映画だと思う)これもまたプライベート映画かもしれない。伊藤にあて書きした主人公は自分をどんどん追い詰めていく自虐的な男だ。どうしようもない男でもある。謹慎からの復帰作として、この題材を演じるのはきつかったはずだ。だけど、取り返せない過去を抱え、ここから生きていくしかないどうしようもない男の傷みが胸に沁みる見事な作品になった。
誰だって多かれ少なかれこういう傷みを抱えて生きている。そこからどう生きるかがそれぞれの課題だろう。簡単に乗り越えられるはずもない。ラストの暗さもこの映画のラストに相応しくていい。安易な救済はいらない。だが、このまま終わるはずもない。彼の人生はまだ始まったばかりだからだ。
父親と母親の抱えるもの。幼いころの事故。それだけが原因ではない。そこから始まった地獄をどう受け止めて生きるべきだったのか。映画は現在から始まり、回想はない。今しかない。そして、この先しかない。一度起きてしまったことは取り戻せないし、やり直せない。わかりきっているけど、どうしようもない。兄の死というトラウマを抱えた家族。何も言わない父親がいい。小林薫がこのもどかしい男を見事に演じた。母親は余貴美子。彼女も素晴らしい。耐える母親ではなく、彼女はちゃんとたくましく生きていく。そんな両親のもとで育ち、現実を受け止めきれないで、結果的に逃げていくばかりの男が主人公だ。これはそんな彼の現在をリアルタイムで見つめていく映画だ。監督はそこで何かを言うわけではない。ただただ彼を見守り続ける。主人公はタイトルである冬の薔薇のようだ。そこにある孤高の傷み、美しさ。それが描かれていく。