いつものように白石さんの小説は長い。今回も上下巻で800ページ近くある。だけど全く飽きさせない。一気読みはさすがにないが、3日ほどで読み終える。特に前半が素晴らしい。松雪先生が登場する前である。もちろん松雪先生は最後まで出てこないけど、前半は松雪先生の名前すら出ないのだ。
最初は短編連作のスタイルを踏むのだが、そうではない。各エピソードが、空を飛ぶシーンを目撃することで終わる。それが繋がることでお話の中心に近づき、やがて松雪先生の名前が出てくるのだ。先生の8人の弟子たちの消息を追う話になり、ドラマは核心に向かっていくのだが、ここからは話の全貌が見えてくるのに、小説自体はそこからパワーダウンしてくる。下巻は正直言うとつまらない。
なんだかよくわからないのに、不思議なものがそこにはあり、それぞれの人生の転機もそこにある。コンビニに就職したかった銚子太郎がスーパーで働くことになるところから始まり、彼が不思議な女性に出会い、彼女が猫を助けて、消えていく。この冒頭にエピソードが素晴らしい。その後もひとつひとつの一見バラバラなお話だ。だが、なんの繋がりもなさそうなこの冒頭のエピソードから始まるいくつものエピソードはすべて整然と繋がり、やがて松雪先生が空を飛んだという事実に向かっていく。
人が空を飛ぶなんてあり得ない。だけど、それが事実でそこから発想してまさかこんな話になるなんて、想像もしない。だけど、それだけ。お話は尻切れトンボで最後は残念。これだけの分量を読ませてあんなラストでは納得しない。まぁこれはスケールの大きな話ではなく、実はささやかな話だけど。だからよくわからない前半は面白いのだ。
1話ごとに新しい登場人物が現れて、やがて凄い人数の人たちがどんどん登場して(途中から誰が誰やら、収拾がつかなくなる)それぞれのエピソードがこんがらがってしまい、困った。しかもみんながちゃんと絡み合うし複雑。なのにそれがラストで一つになるという快感はあまりない。だいたい松雪先生がまるで魅力的ではないのは問題だと思う。