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映画・演劇のレビュー

『ウォーロード 男たちの誓い』

2009-05-19 00:04:48 | 映画
 これだけの映画に出た後で、『レッドクリフ』のような映画にすぐに出演してしまう金城武のフットワークの軽さ。この映画に出た後では、しばらく映画になんか出れないジェット・リーの放心。『レッドクリフ』ではなく、ダニエル・リーのローカル映画『三国志』の方に出演して、まるでこの映画をリセットするアンディ・ラウのプロ魂。三者三様の選択を促したこの超大作の存在は大きい。

 待ちに待ったピーター・チャン監督渾身の力作『投名状』が、ようやく日本公開である。なぜ、今まで公開が遅れたのかは、作品を見ればよくわかる。これはエンタテインメントではない。『レッドクリフ』のようなゲーム感覚の映画であったなら、一般にも受け入れられやすいのだろうが、この重くて暗い映画は日本での興行は難しい。今回の公開も『レッドクリフ』の大ヒットという後押しがなければ不可能だったのかもしれない。その意味ではジョン・ウーには感謝。

 これは凄まじい超大作である。CGではなく、実写でこれだけのスペクタクルを見せる。本物の迫力というのは実は見ていて正直言うとつらい。残酷だし、目を覆いたくなる。もちろんわざと悲惨に見せたりいいかげんな誇張をしているのではない。これが戦場の真実なのだと思う。

 3人の友情を美しく謳い上げるわけではない。それどころか、醜い一面ばかりがクローズアップされる。どうしようもないものが彼らを引き裂いていく。正義のために戦うことが、こんなにも悲しいことで、国が乱れて、人々が犠牲になり、たくさんの命が奪われ、それを正そうとして戦うのに、結局はどうすることも出来ないまま、死んでいくしかない。こんなにも簡単に人は死んでしまう。生き抜いていくことはこんなにも困難なのに。

 みんなを生かすために身を犠牲にして戦う男たちをこんなにも真摯に描いた映画はなかなかない。それぞれがみんなのことを考えて必死になって戦う。最初は生きる希望を失くしていたり、ただの盗賊でしかなかったりした。だが、みんなの命を守るために戦ううちに変わる。蘇州開城から、南京陥落までを描くシーンの悲壮感は尋常ではない。今まで映画の中でこんなにも個人的な関係性と国家の在り方を絡めたシンプルな図式の中でここまで様々な問題すべてを描ききった映画があっただろうか。これをただの娯楽映画だと思い見ていたなら大火傷をする。

 ピーター・チャンは初期の恋愛映画も好きだったが、こんな映画を撮るようになったのだ。感慨深い。ここまでの映画の中でなんと言っても最高なのは『ラブソング』である。あの映画は彼の生涯の映画だ。あの1本で僕は死ぬまで彼についていこうと決心した。それくらい凄い映画だ。あれで自分の映画を極めた彼がさらにその先を目指して今まで見たことのない映画に挑んだのがこの作品である。この『投名状』を通して彼は新しいステージに足を踏み出した。この一歩は偉大な一歩だ。
ここから彼がアジア映画の名主として、僕たちの映画をどこまで引っ張って行ってくれるのか、これからが楽しみだ。

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