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映画・演劇のレビュー

スクエア『湿原ラジオ』

2015-09-08 22:29:59 | 演劇
近鉄アート館でのスクエアは、なんだかいつもと少し違う。上田さん自身がパンフでそう書いているのだから、間違いない。いつものスクエアとは少し違って、ちょっとしたファンタジーで、それがとてもいい。この空間にぴったりなのだ。広い舞台を縦横に使って、ちょっとした夢の世界を遊ぶ。でも、そこはそこ。スクエア流のファンタジーである。結構せこい。というか、壮大ではない、ということだ。これはあるラジオ番組をめぐる小さなお話なのだ。

深夜ラジオなんかもう何十年も聞いていないけど、10代のころはいつもラジオと一緒だったのが、懐かしい。勉強していたのか、ラジオを聞いていたのか、定かではない。それほど夢中だった。今でもそういう子どもたちはいるのだろうか。

明らかにこれは『鶴瓶、新野のぬかるみの世界』という番組だ。懐かしい。僕らの世代なら、みんなハマったのではないか。それをモデルにした。上田さんが鶴瓶で森澤さんが新野新。彼らの番組が深夜の嘘のようなファンタジーを作る。リスナーとのやりとり、彼らが送ってくる情報を通して深夜の孤独な世界から、夜の街の恋愛騒動が始まる。

主人公のふたりは番組の途中だから、スタジオから出ることがない。椅子に座ったまま、2時間。マイクに向かってしゃべるだけ。電波は真夜中の人々に届く。ラジオから聞こえる声にひとりで過剰に反応して、きっと人が見たなら不気味。でも、本人たちはとても幸福。受験生や、タクシーの運転手、引きこもりの男や、バーテン。これは彼ら4人に代表させたすべての人たちへのメッセージだ。孤独な世界をつないで、ほんのひと時の憩いを与える。そんなラジオをこの芝居は体現する。とある男女のたわいもないラブストーリーを、なぜか彼らと関わることになったみんなで応援する。嘘みたいなまるで夜見た夢のような出来事。

ちょっとしたドタバタなのだが、本当はこれはすべて夢でいい。こんなことがあったならそれはそれでいいし、ちょっと「いい話」だけど、これを現実だと、思うことはない。お芝居自体が現実なんかじゃないのだから。「ほら話」と思うほうが楽しめる。そんなたわいもないお話なのだ。そこがまたいい。


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