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映画・演劇のレビュー

『ピース・オブ・ケイク』

2015-09-08 22:34:58 | 映画

25歳女子の日常をただ淡々と描く映画。今までこういうのって、ありそうでなかった。一応は恋愛映画なのだが、まるで夢見心地ではない。それどころか、なんだか悲惨。オトコ運が悪い女。でも、すぐにまた誰かを好きになってしまい、また悲惨なことになる。懲りない自分にうんざりしている。だから、もう恋愛体質からはおさらばして、自分本位に生き方をしようと思う。だけど、気がつけばまた、同じことをしている。そんなイタイ女を多部未華子が演じる。男に二股かけられ、反対にお前がそんな女だから二股したくなるんだよ、なんて逆ギレされて殴られる。もう男なんかこりごり。仕事を辞めて、引っ越して、バイトを探す。友人のオカマくん(松坂桃李)のバイト先のレンタルビデオ屋で雇ってもらうのだが、そこの店長が引っ越し先のお隣さんで綾野剛。ちゃらい男なのだが、なんだかトキメク。

こんなふうに書いていくと、よくあるラブコメみたいなのだが、そこは田口トモロヲ監督だから、そうはならない。等身大の20代後半に突入した未来の見えない女の夢と現実がリアルに描かれていく。将来なんかわからない。結婚して子供を産んで、幸せな家庭を築く、なんて考えてもいない。もちろん、結局はそういうところに落ち着くかもしれないけど、そんな夢のない人生が望みではない。では、何? まさか、白馬の王子様、なんていつの時代のこと? 自分のことを一番大事にしてくれて、愛してくれる人。ないわぁ、と思う。そんな受け身の恋愛ではなく、もっと自分の気持ちに忠実に、なんて、それもないわぁ。

恋愛優先の人生がどれだけ不安定で、壊れやすいか。そうじゃなく、自分の夢を追いかける。でも、夢なんかないし。こんなふうに書いていくと、なんて空しい人生か、と思う。でも、そんなものじゃないか。特別なことなんか自分にはない。ただ流されるだけ。自分はヒロインではない。ただの20歳後半に突入して、いろいろイタくなってきた女でしかない。

多部未華子がとてもいい。彼女が自虐的ではなく自然体でこの主人公を演じる。綾野剛演じる男はつまらないやつだけど、彼なりの誠実さを示そうとする。だが、こいつだって、ただの男で彼女の王子様ではない。だいたい出逢ったときには、めんどくさそうな彼女がいて、その女に振り回されていた。しかも、別れてからもその女を引きずるし。つまらない男だと、わかっている。でも、好き。

結局そこ。好きになってしまったら、だらしなくなる。次から次へと新しい男が出来てしまう。しかも、いつもつまらない男。今回だって今までと同じだった。だから、もういいや、と思った。

そんな彼女が、いつものことだが、友だちの松坂桃李が所属する劇団を見に行き、それからなんとなく、小劇場にハマって、たまたま劇団の衣裳係に空きができて、得意だし、暇だし、ということで、劇団員のような感じになる。しかも、今まではマニアックだった劇団がなぜか結構人気が出てきて、気がつけば、そこに自分の居場所が出来る。

映画の終盤のこの急展開には驚く。キワモノ劇団(なんと、「鹿殺し」が演じる)がブレイクして、スズナリからなんと本多劇場に進出。主演の松坂は映画の準主役に抜擢され人気急上昇。彼女は劇団の衣裳として確固とした地位を築く。

まさか、こんなところで、小劇場演劇が登場するなんて、しかも、こんなふうにそれなりにリアルに、ちゃんと描かれることになるなんて、思いもしなかったので驚く。

夢見がちな青春恋愛映画なら、たくさんすぎるほどある。だけど、こんなふうにちょっとリアルで、でも夢を忘れないで、という映画ってなかなかない。2時間どうなるのやら、先がまるで読めない。ラストだって究極のハッピーエンドのような描写だけど、明日になれば、夢から醒める。その瞬間だけのこと。だが、あんなこともなくては、生きている意味はない。映画のようなラスト(まぁ、これは確かに映画だけど)を覚めた目でリアルに見守ることになる。それがなんだか心地よい。


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