今まで数多くの新選組を描いた映画やドラマがあったけど、こんなにも凄い作品はなかったのではないか。土方歳三ひとりにスポットを当てて、彼があの時代をどう生きて、どう死んでいったのかを描く。
彼は自分を一切曲げない。時代に流されない。そんな頑固なまでもの一途な生きざまを岡田准一が、ぶれることなく、見事に演じ切ってみせた。彼のキャリアの頂点を極める作品に仕上がった。全編よそ見することもなく、ずっと彼を中心にして2時間半の映画は一気に見せる。原田眞人監督は細部まで妥協することなくこの超大作をドライブした。スクリーンの隅から隅まで作り手の拘りが浸透している。だから一瞬すら目が離せない。最初から最後まで緊張が持続する。もちろんそこにはずっと岡田准一がいる。その凛とした佇まい、生きざまに震える。これは渾身の一作であり、今年の日本映画を代表する傑作だ。(コロナのせいで公開が1年半延期になったから、本当ならこれは昨年のベストワンだったはずだ)
昔、子供の頃、栗塚旭のTVドラマ『燃えよ剣』を毎週見ていた。夢中になった。子供心にそのカッコいい生き方に憧れていたのだろう。50年後の今、再び同じ原作を基にしたこの映画を見て、こんなにも興奮している自分に驚く。50年間そんなこと思い出すこともなかった。なんか不思議な気分だ。半世紀を経て、自分が何を思いこれを見ていたのか。そこに思いを馳せる。12歳の少年の心に響いたものが何だったのか、残念ながら忘れてしまったけど、今日この映画を見ながら、岡田准一のまっすぐな瞳に魅入られた。あの頃のようにまた夢中になっていた。
映画は五稜郭直前の土方にインタビューするところから始まる。全編彼の言葉で、これまで生きてきた人生を振り返り伝える、というスタイルなので、ずっと視点は今の彼からぶれることはない。しかも、この後彼は最期の戦いに臨む。人生の終わりに何を語るのか。そこには後世のために自分をよりよく見せよう、とかいうような打算はない。彼は武州多摩のバラガキだった頃からずっと変わらない。
そんな自分を貫き通す生き方にしびれる。それが正しいか、間違いであるか、なんて二の次である。ぶれないということが大事なのだと思う。自分の信念を貫く。自分が信じた道を進め。それだけだ。実に潔い。「時代を追うな。夢を追え。」という映画のキャッチコピーがすべてを言い尽くしている。