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映画・演劇のレビュー

『ROMA ローマ』

2020-06-02 21:28:20 | 映画

もう2か月以上映画館には行ってない。映画館はようやく再開したけど、まだ新作の公開もないし、それよりなにより、自分にまったく余裕がない。そのくせ、DVDではたくさん映画を見ている。見るだけなら大丈夫だ。でも、なんだかここに書くのはおっくうだ。忙しくて書く余裕も気力もない。先日からさらにはNetflixを見始めたので、なかなか気持ちが劇場に向かない。よくない傾向だ。日曜には『全裸監督』全話を連続で一挙に見た。さすがに疲れる。前半はかなり面白かったけど、黒木香が前面に出てきたところ(後半部分)からお話がいきなり減速するのが惜しい。

さて、『ローマ』である。これが見たかった。『アイリッシュマン』は劇場で見れたけど、こちらは見逃していた。ようやくである。期待を裏切らない作品だった。

この静かな映画に世界に浸る。静かだけれど、激しい。ある家族の1年間ほどの時間を切り取るスケッチだ。それを淡々としたタッチで見せていく。大きなドラマは何もない。1970年から71年にかけての出来事。時代に翻弄される人々の姿を背景にする。だからドラマチックに描こうとしたなら、できないわけではない。でも、しない。

アルフォンソ・キュアロン監督自身の少年時代の思い出を題材にしたらしい。彼の家族と、彼の家にいた家政婦との交流が描かれる。彼女になついた、彼女と過ごす日々。そのなかで起きるいくつもの出来事を綴る。家族の問題もある。当時のメキシコの社会問題も背景にある(はず)。だけど、それが前面に出ることはない。ある中産階級の(かなり裕福だけど)変わることのないはずだった毎日。でも、夫が家を出たこと、海で溺れそうになったこと。小さな出来事も大きなこともすべてを見つめるモノクロの映像の清潔感。どうしてこんなにも何もない映画なのに、それをこんなにもみつめ続けてしまえれるのだろうか。不思議だ。退屈な映画にしかならないような感情の起伏を抑えた描写の連続なのに、それでもスクリーンから目が離せない。

でも、今回、実はスマホの小さなスクリーンで見たのだけど、それでもこの映画の穏やかな風景の持つ緊張感の持続は伝わる。そりゃぁ劇場で見たかったけど、見逃していたのだから仕方がない。Netflixの配信する映画をスマホ場面で見るという邪道のはずの行為。

でも、小さなスクリーンだからこそ、伝わるものもあるのだ、という発見もあった。至近距離で見ることで集中できたのだ。もちろんこの映画にそれだけの力があったからだろうけど。随所に延々と続く長まわし。遠景で撮られたシーン。人が豆粒になっている。しかも、あまり動かないし、情景や風景は変わらない。冒頭とラストなんてどちらもタイトルが流れているけど、5分近く続く。静物画のような映画だ。止まっているわけではないのに。透明でクリアな画像がまるですべてを現実のことではなく、夢の中の出来事のように見せる。起伏のないドラマが現実感を喪失させる。ノスタルジアではない。見終えた後には、とても不思議な感触が残る。これは一体何なのだろうか。


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