名取佐和子の新作は、今回もまた図書館が舞台だ。このタイトルだし、期待しかない。前作『図書室のはこぶね』の続編であり、もちろん野亜高校の図書室が舞台である。ただお話も登場人物も変わるけど。
イーハトー部の活動は図書室でされる。宮澤賢治さんの研究をする弱小同好会。部員は新入生の女子1名を入れて4人。しかも部長である風見さんは不登校でずっと不在。
主人公は2年になったばかりのチカ。彼は不本意なままこの高校に入った。第一志望の私立に落ちたから。公立はランクを落としてここを受験した。だけどここで風見さんと出会い、賢治さんを知り、高校生活を愉しむことが出来ている。だから風見さんに再び学校に戻って欲しい。
どこにでもいるような、だけど目立たないから誰も知らない高校生。そんな彼らの日々が描かれる。まるで高校時代の自分の姿を見ているようだ。あの頃僕も不本意な学校に通い、そこで映画部に出会った。あの高校に入らなかったら、今も付き合うあの友だちには出会えなかったはずだ。あそこで誰にも知られずせっせと8ミリ映画を作っていた日々。思い出す。
文化祭のビブリオバトルに向けて準備する彼らの時間は、僕が(僕たち映研が)文化祭、社会科教室での校内映画祭に向けて頑張っていた1977年、高校3年の秋を思い出させる。
チカは文化祭の夜、美濃部先輩とふたりで駅まで歩いて帰る。ここからお話は本格的に始まった。前作はケストナーの『飛ぶ教室』で体育祭だったが今回は賢治さんの『銀河鉄道の夜』で文化祭ある。修学旅行で風間さんは賢治記念館を訪れた。そこから彼は学校に来れなくなる。お話はあそこで彼に何があったのか、ということを巡るミステリー仕立てになる。最終章、「ほんとうの幸い」に向けてお話は加速する。ラストの卒業式は感動的な幕切れだ。ここに落とし所を持ってきたのか、と感心した。新しい旅立ちが綴られる。