中学生くらいの頃、この小説を読んだ.当時はとても面白かった、と思ったのだけど、実は今ではもうあまり記憶がない。というか、当時の僕はなんでこんな地味な本を読んでいたのか、それも今では謎だ。それに台本スタイルで書かれた小説なんて、生まれて初めてだったから、そこにも面食らった。最初はとても読みづらかったのを、覚えているような、いないような。そんなこんなを思い出す。
さて、今回の無名劇団だ。まず、音楽の使い方が大胆で、仏教劇にあんな音楽を、しかもあんなにもガンガンに鳴らしてしまうのや、ダンスシーンをふんだんに交えて見せるのやら、要するそれっていつもの無名劇団なのだが、それをこの素材でやられると、新鮮、というか、やはり大胆。お寺の小劇場である応典院でこの作品を取り上げるというのも大胆。ちゃっかりここの主幹である秋田さんの指導を受けているのも。
僧侶と遊女の恋を扱うというのも大胆。(それは原作がそうなんだけど)[「許す」ということ]というテーマを掲げながらも、「全てを許せる「仏のような人」には、私は一生涯かけてもなれそうにありません」という島原さんが演出を担当するというのも大胆。
この作品のおもしろさは、台本の上手さを演出が疑いながら、融和していくのではなく、反発しあっていくことで生じる。そんなことでいいのか、と何度となく突っ込みを入れたくなる部分を満載して、「善人なおもて往生をとく。いわんや悪人をや」という親鸞の教えを疑ってかかり、親鸞自身が自分を信じきれず、迷っている姿が描かれる。
それだけではなく、島原さんが演じる息子、善鸞のほうがずっと吹っ切れていて、一本筋が通っている、という逆転ぶり。ふたりの間に入って結局右往左往する唯円(中谷有希)と遊女の純愛のあやうさ。善鸞に影響を受けまくって、仏の教えを疑ってかかる姿勢を、見せる。
僧侶が遊郭に入り浸って恋愛にうつつを抜かす姿をシニカルに描くわけではなく、それを恋愛の王道として、大真面目に描く。この作品のおもしろさはそこに尽きる。「女だらけの劇団」なのに、こんな男中心の芝居に挑戦し、もちろん主人公の2人は女優が演じる。父と子。師匠と弟子。恋愛にうつつを抜かす僧侶の話。しかし、人が人を愛すること、というとても大切なことを真正面から取り上げる。これはいろんな意味でハードルが高い芝居だ。なのに、果敢にそれと取り組み、結果的によくできた作品に仕上げたのは凄い。
当たり前のところには落としどころを持ってこないのがいい。こんなタイトルの芝居なのに、説教臭くはならないのが無名劇団のすごさでもある。しかも、しっかりエンタメとして成立している。布を使ったダンス・パフォーマンスがいいし、モノトーンなのに、華やか。衣装もいい。やはり、いろんな意味で視覚的にしっかり楽しめるようになっているのが成功の一因だろう。
潔くて凜々しい島原さん演じる善鸞を中心にして、悩みながらも自分の道を邁進していく彼らの群像劇に仕立てたのがよかった。復活後の全ての作品を見ているが、今まででこれが一番いい。