いつもながら凄いタイトルだ。奥さまの体をバラバラにするのではない。一人であるはずの奥さまをバラバラに役割分担して、複数の妻を持つのだ。チラシには、(まるで本編と関係ない!)ヤケクソのような「男も嫁ぐ!子供も嫁ぐ!」という謎のコピーもあるけど、バカバカしいやら、なんだかで、笑える。
しかも、芝居がまた、今までのクロムとはまるで違うテイストで、それにもびっくり。これはなんとズブズブの泥沼にはまり込んでいくような作品なのだ。ポップでクレイジーないつものクロムはどこに行ったのやら。重くて暗い狂気の世界を、でも、それをドロドロに描くのではなく、なんだかとても落ち着いたタッチで、民話でも語るような穏やかなタッチで描いて見せる。
青木さんの本当のところはどこにあるのやら、わからない。でも、底に流れるものはいつもと変わらない。初期のチャン・イーモウの世界(『紅いコーリャン』や『菊豆』『紅夢』)を青木流に見せていく。もちろん、芝居自体は先にも書いたように、とんでもない話で。ダークな世界が、なぜかノホホンとした民話的語り口で描かれるのだ。
人里離れた村の中で起きた殺人事件。(事故だけど)4人の妻をめとり、ここに王国を築き上げた男(兄と弟)とその家族。そこにやってくるやらせのドキュメンタリーのスタッフもやってくる。(『ブレアウイッチ』ね。)
プロローグの事件を巡る顛末のあと、4人目の妻がやってくるところから本格的にドラマは始まる。ばかげた妄想を現実にしてしまい王国を作る。ドラマ重視の作品になっているのも意外だ。
だいたい、こんなにもシリアスな作品だとは思わなかったので、最初は戸惑いを隠せない。ストーリーラインが明確で一見すると、とてもわかりやすい。しかし、いろんなところが見えにくいままで、中心にいるヤマノという男の闇はクリアにされることはない。4人目の妻と彼が話す嘘の会話の部分が、お互いの本音で、外部からこの村にやってきて、ここにとどまることでこの世界は完結する。森の奥の惨劇を、緩やかな悪夢のように描く作品。テンションは普段ほどには高くない。それはクロムの新境地か。