東日本大震災、福島原発事故から9年。この3月に公開されたこの大作映画はあの事故の現場にいて、対応した東電の職員たちの姿を描くドキュメントだ。事実をベースにして最大限の再現を通して、あの日あそこで何があったのかに迫る。これだけの大作映画を作るためにどれだけの労力とお金をつぎ込んだか、想像を絶する。しかも、あれからまだ9年である。記憶も生々しい今、それでも、今だからこそ描ける、これは未来への提言だろう。今一度、あれはなんだったのか、これから何をするべきなのかを考えるためにも、この映画を見るべきなのかもしれない。
だけど、劇場は閑散としている。コロナウィルス感染防止のためでもあろう。映画館はどこも同じだろう。福島のことよりも目の前のコロナのことでみんないっぱいいっぱいだ。たぶん。余裕がない。この映画の最後に、「2020年、東京オリンピックの聖火リレーは福島からスタートする」、という字幕が出るのも悲しい。2011年の地震、津波、原発事故が思いもしない出来事であったことと同じように、今目の前のコロナウィルスもまさか、こんなことになるなんて、誰も想像しなかった。政府の初期対応、その後の政策は、この映画の描く政府の対応と呼応する。誰だって想定外の出来事に冷静な対応はなかなかできない。しかも、今後どうなるのかも想像できない事態に直面して、最大限の対応って、どうすることかなんてわからない。でも、現場では命を懸けてやれる限りのことをしている。
この映画を見ながら、心が苦しい。原発の中で戦った彼らの姿をヒロイックに描いている、なんていう感想も聞くが、そうじゃないだろ、と思う。あそこにいた彼らがどんな思いであそこで生きたかは想像を絶する。
そして、そんな彼らを描くこの映画の作り手たちは、どれだけの覚悟を抱いてこの映画を作ったか。それは見ていて痛いほどわかる。被災した人たちがこれをどう受け止めるかも含めて、細部まで嘘は描けない。正確に再現し、それがなんだったのかを伝える。映画としての完成度云々ではなく、ここに込められた祈りがどれだけ伝わるかが一番大切なこととなる。2時間苦しいけど、見終えて、厳粛な気持ちにさせられる。それだけでいい。たぶん。