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『百年厨房』に続いてタイムスリップを題材にした小説である。こういう安易な設定からスタートするのは純文学畑ではめずらしいことだろう。白石一文大丈夫か、と心配するはずもない。彼があえてそれをやろうとするのなら、安易な展開ではなく十分な覚悟の上での展開をするはずだからだ。それがどこに行きつくのか、楽しみではないか。
今回も500ページ越えの大作である。第1部でタイムスリップして881日前のあの日のやってくるまでが描かれる。大学生だった娘の事故死、失意からの妻の自殺未遂。心を病んだ妻の介護に明け暮れる日々。もう一度、あの日からやり直すために彼は再びあの絵の前に立つ。15歳の頃、受験に失敗し、人生が終わったと思ったあの日。たまたま目にしたあの絵の前で、タイムスリップして高校受験の日に戻った。40年ぶりにあのニコラ・ド・スタールの『道』と向き合う。
入り口はこんな安易な展開だけど、そこからお話をどういうふうに展開させていくのかが作者の腕の見せ所だろう。まさかの展開を見せた『百年厨房』以上の驚きを提示することは必至だ。2度目のタイムスリップでもう一度人生をやり直す。娘が死なない人生を。だが、そこから始まる幸せなはずの時間がなんだかいびつな展開になる。やり直して生きることができたなら、悔いのない人生が可能なのか。そんな簡単な話ではないという事は想像できる。まさかの展開に動揺する。でも、受け入れるしかない。もう一度、はない。
だが、お話は「もう一度」へと進む。そうなるともう何度でも、になることは必至だ。しかも、他人(事故の時、娘の代わりに死にそうになった女性)まで巻き込んで収拾がつかない事態に至る。540ページのお話をここで簡単に書くのは不本意なのでしないけど、こういうSFスタイルってなんだかなぁ、と思った。『百年厨房』のように入り口だけそこを用意するのではなく、がっつりと向き合う「アンストッパブル巨編」なんてのもなんだかなぁ。
最初は面白かったのだが、途中からへんな辻褄合わせになり、少し興醒めした。もっと小さなお話でいい。彼が後悔し、再び始めたリセットがいろんな問題を引き起こし、収拾がつかなくなる、という展開は悪くはないけど、そう何度も自分の都合だけで時間を巻き戻すのって読んでいてイライラする。現実はそんな都合にいいことはないのだし、いくら小説だからといってそれはないわぁ、と思う。何度やり直しても意味はない。後悔先に立たずだし。なんだか安易な作品にすら思える。白石一文だけど、ドンマイ。