どれだけお金をかけてもこの映画は作れない。そういうタイプの映画なのだ。12年間という時間がテーマである。6歳の少年が主人公。彼の12年間を描く。そのためには12年という歳月が必要になる。ドキュメンタリーではない。ちゃんとした劇映画だ。だから、主人公である少年は、最初は子役で、やがてはティーンエイジャーになる。同じ役者を使ってリアルタイムで主人公たちの人生を描く。だから、少年だけではない。まわりのみんなも12年間この映画の撮影に拘束される。
こんなことがあっていいのか。というか、そういう企画に賛同して協力するスタッフ、キャストって、どうよ、と思う。最初はそのつもりでも、不可抗力から企画が潰れてしまう可能性だってあったはずだ。でも、やり遂げた。すごい、としか、言いようがない。このプロジェクトを思いつき、実現したのは、『ビフォア』シリーズ3部作を実現したリチャード・リンクレイター監督だ。彼しかこんな暴挙を成し遂げられない。時間というものに取り憑かれた彼ならではの「とんでも」企画である。
『ひかりのまち』でウインターボトムも5年間同じキャストで、撮っているけど、12年である。しかも、こちらには、最初は台本がない。12年の積み重ねだ。それは彼らの人生ともリンクする。最初にあった台本は(というか、それはアウトライン程度のものではなかったか)その時その時の状況によって変わっていったはずだ。実際の彼らと、役の中の彼らの人生は全く別のものなのに、それはきっと微妙にリンクしていく。だって、そこには確かに12年の歳月があるのだから、それを虚構のものにはできない。
この映画の凄みはそこに尽きる。フィクションの世界が現実をなぞる。だが、それはただのなぞるではない。子供たちの成長をそのまま記録する。12年間毎年夏に集まり、撮影は続いたのだそうだ。
人生は思ったようにはいかない。でも、やり直しはできない。(先日見た『アバウト・タイム』はそこに果敢に挑んだ!)誰もがよくわかっていることだ。それを、この映画は本当の人生を使って見せていく。特別なエピソードはいらない。ここに描かれるささやかな毎日、それがただただ凄いのだ。3時間の上映時間はあっという間の出来事だ。だって、本当ならそこには12年があるのである。3時間なんてそれに較べれば一瞬の出来事でしかない。
大学に入学するまで、という区切りもいい。そこだけは最初から決まっていたことだろう。ここには、どこにでもある、誰もが持つ人生の輝きがある。これは今年最高の映画だ。必見の1作。