こういう新人監督が現れるのは、わからないでもない。自主映画によくあるひとりよがりすれすれの作品なのだが、独自のスタイルを最後まで貫き、成功している。内容はないけど、スタイリッシュで、飽きない。並行して描かれる主人公3人が出会うまでのドラマが、おもしろい。そして、本題である3人の共同生活を描く部分も楽しい。こんなことって、ない。だが、もし、あったなら、いい。別に特別なことをするのではない。伊豆の廃墟になったホテル(旅館)で、3人で過ごすだけ。
お互いがどんな状況にあって、何を思うか、なんてどうでもいい。ただ、たまたま一緒になって、たまたま、ここがあって、たまたま、時間もあって、だから、たまたま一緒に暮らした。こんなことが永遠に続くわけではない。そんなことも望まない。ほんの数日。飽きたら終わり。しかも、終わりは突然やってくる。でも、それは悲しいことではない。おしまい、って感じでまるで後腐れはない。だって、彼らは何の関わりもないただの他人なのだから。
女ひとり、男ふたり、の『冒険者たち』の昔から続く黄金のパターンなのだが、恋愛ものには一切ならない。彼女はそんなタイプの女ではない。こんな女を好きにはならない。だからと、いって彼女が酷い女だというわけではない。それはそれで魅力的だ、だけど、こんな女と関わりたくない。そんなタイプの女か。でも、劇作家の男は彼女を主人公にした作品を1本書き上げて、彼女を女優としてスカウトする。そういう魅力はあるのだ。
ラストで、もとの生活に戻った3人の日常が再び描かれた時、ここに描かれたすべてが幻だったのではないか、と思えてくる。出会うはずもない3人が「出会わなかった、」という当たり前のこと、それが本当で、ここには、最初から何事もなく、今までどおりの日常が続いていた。だから、白昼夢を見たような気分。
あまりに、変わらないから、そんな気にさせられる。最初からへんてこだった。でも、最後にもう一度そこに戻った時、それがありふれた日常に見える。それもなんだか不思議だ。彼らの特別な時間が終わる。でも、それが悲しくはない。なんだか、それはそれで心地よいのだ。なんともドライで、やはり不思議、これはそんな感覚的な映画なのだ。