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映画・演劇のレビュー

藤野佳織『爪と目』

2017-02-07 00:07:59 | その他
この不気味な小説は、3歳の少女の大人びた視線を通してすべてが語られていく。大人になった今の彼女の視点から、当時の彼女の周囲のドラマが、3歳の時間のリアルタイムとして見せていかれる。「あなた」と語られる新しい母となる女性のことを、「わたし」であるあの頃の自分の目から語るのだ。



事故に(自殺かも)よって母を喪い、そこに新しい母として入ってきた父の愛人だった「あなた」。あなたは別にわたしの義母になりたかったわけではない。父の妻になりたかったわけでもない。自分が何を求めているのかわからない。だから、3歳の女の子のことなんか、わからない。嫌いだとか、好きとか、そういう問題ではない。



そんな女性に対して、心の声で「あなた」と呼びかけ、あなたとわたしの日々を一切しゃべらない「わたし」のインナーボイスとして小説は綴っていく。しかし、「わたし」にはあずかり知らぬ父と「あなた」のことまで平然と語っていくから、この「わたし」はこの小説の語り部で、すべてを知っている作者であり、全能の存在だ。「わたし」とは誰だ?



ラストのカタストロフィーも、「わたし」(少女)による「あなた」(大人)への復讐というよりも、もっと心象風景のようなものに見える。「あなた」と「わたし」との境界線があいまいになる。爪を噛むこと。目が見えないこと。マニキュア、近視、コンタクトという惨劇の終盤に向けての布陣は、何だったのだろうか。この白昼夢のような余韻を残すラストに取り残されてしまった。



同時収録された2編の短編も、同じように不思議な味わいを残す。病院にいる認知症の老婆の記憶。こちらも母と娘のお話だ。子供のたまり場である小さな公園にまつわるつまらぬ都市伝説に怯える少年と母親を描く最後の1篇も。おさまりどころの居心地の悪さが、とてもいい。
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