400ページを越える長編である。しかもこんなにもシンプルな話。それがなかなか進展しないから読んでいて少し心配になる。イライラするくらいに話は進まない。
真夜中に出会うふたりの高校生。引きこもりで不登校の彼。夜中に出歩く悪い子になりたいと願う彼女。ふたりは毎日のように深夜の公園で会う。だがこれはラブストーリーではない。
彼は人と接するのが怖い。だからずっと人とは会わないように引きこもっている。せっかく高校に入学したのに、学校には行けない。そんな彼に関わってお世話をする彼女。なぜそこまでしてくれるのか、わからない。なんとそれだけで300ページまで。ふたりの深夜のデートが繰り返し描かれていく。
彼女の秘密が明らかになるのはラスト150ページから。ここからようやく話が動き出す。434ページである。終盤怒濤の展開になる。それまでの300ページがただの序章だったかのような。彼女を助けるために外に出ることすら叶わない彼が不法侵入して窃盗して、彼女を守るために彼女の父親の隠しているものを持ち出す。だが、それが果たして彼女が言う通りのものなのか、わからない。最後まで来てもわからないまま終わるし。だけどそれでいい。ほんとのことなんて心の中に秘めて鍵をかけていい。
彼が幼い頃から受けてきた虐待。母親はただ無邪気なだけで、息子のことを考えることもない。自分しか見えない。
彼女が幼い頃から受けてきた虐待。父親は幼児だった彼女に性的な虐待を強要してそれを愛だと言う。高校生になった今も性的な暴行を加えている。
ふたりはすべてを燃やしてしまう。それで終わりだとは思わないけど、小説はそこで終わってしまう。海にやって来て、父親の行為の証拠をすべて燃やしてしまったら、終わるのか。そんな簡単なことではない。だけどここから始まる一歩もある。凄い小説を読んでしまった。