『パラソルでパラシュート』に続いて漫才師を描く小説を読んだ。まぁ、たまたまだけど。しかも、今回は昔懐かしのスポ・コンものだ。一穂ミチは正面から漫才を描いたわけではなく、たまたま出会った男が芸人で漫才をしていたことで業界の人たちとも知り合うことになり、知らない世界へ迷い込む女性を描いたが、こちらはふたりの漫才師(別々の相方を持つ先輩後輩であり、ライバル関係でもある)と、構成作家を目指す女の子の3人のお話が交錯したりしなかったりしながら、同時進行していくというスタイルを踏む。
だけど、お話は昭和の熱血マンガのノリで『巨人の星』を思い出させる。鬼コーチが同時に二組の漫才師を育ててM1(本編ではKOM「キングオブ漫才の略」となっていたけど明らかにM1)で競わせることになるとか、漫才なのに筋トレして走らせるとか、『ベストキッド』まがいの修行をさせるとか、荒唐無稽。400ページ越えの長編なのに、どんどん読めるから1日で読み終えた。この先が気になるから読み始めたらとまらない。同時進行する3つのお話がどんなふうに収まりをつけるのかも、気になるし。謎の構成作家の正体とか、怒濤の終盤すべての謎が解き明かされるのだが、さすがにあれはやりすぎた。もっと単純な結末でよかった気がした。マンガじゃないんだから、ね。20年の歳月を経て、明かされる真実を描くオチは、それはないわ、と思う。そういうことだったのか、という驚きではなく。
M1の決勝のところが、ちょっとなぁ、と思う。終盤でまさかのインフルで出場が困難に、とか、もうあざといあざとい。そんなのはいらないよ、とも思うけど、でも、じゃぁどうなるんだ! とドキドキさせるエンタメ志向の急展開。そこが反対にあざとくて、ちょっとひいてしまった。
2人とも、もう後がない崖っぷちで、漫才をあきらめてふつうの生活を送るか否かの選択を迫られている。死神と呼ばれる謎の構成作家が別々にふたりを救い上げて、相方をさがし(身近にいた今までの相方を再発見するというこれもよくあるパターン)、奇策を弄することで、まさかの頂点を目指す。あまりに都合よく展開していくお話にはマンガみたいと思うしかないけど、楽しく読ませるので、これはこれでありか、と思える。以前読んだこの作者の『お父さんはユーチューバー』より進歩していて出来はいい。だけど、このふたりのお話と同時進行する構成作家になりたいと思う女の子とその彼氏のお話がうまくまじりあい、そうだったのか、というオチに至るのだけど、ここが弱いから死んでしまった彼女が浮かばれない。敢えて3人を主人公にしたのなら、彼女を安易に死なせるのではなく、もっときちんとほかの二人の話とシンクロさせて、驚くべき結末に連れて行って欲しかった。それができないのならこんなあざといラストではなく。ふつうの終わらせてくれた方がよかった。これでは「ワラグル」(笑いに狂う)という狂気が描き切れない。