習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『痴呆性老人の世界』他

2023-03-19 10:28:10 | 映画

これは今から35年以上も前のドキュメンタリー映画だ。ようやく見ることが叶った。しかもフィルム上映である。こんな貴重な機会を設けてくれた国立国際美術館「中之島映像劇場」に感謝。

今これを見ると、まるでワンダーランドに迷い込んだ気分にさせられる。当時の風景がそれだけで今では不思議な世界。ほんの30数年前のことなのに。認知症の老人ホームが舞台だ。そこで暮らす人たちと彼らを介護する人たちの姿を追う。彼らと書いたが、ほとんど女性にスポットが当てられる。監督が羽田澄子だからではなく、ここにいる男たちが、まるで被写体にならないからだ。ここの男たちはみんな死んだように(まだ生きているのに)ひとりで過ごしているばかり。
 
男女の差がこんなにも明確になっているのに驚きを禁じ得ない。介護の現場で、何が起きていたのか、カメラは静かに伝える。あれから30数年、今の現実を知る目から見ることで、改めて見えてくるもの。いろんなことを考えさせられる映画だった。古くないだけでなく、今だからこそ新鮮すぎる。
 
かわいそうだと思うより、彼女たちがなんだかかわいいし、素敵だと思ってしまう。ファンタジーとして、見えてしまうからか。ここには描かない過酷な現実は承知の上で、冷静になって見ている。だけど、やはり彼女たちを暖かく見守ってしまう。今はまだここに親を預けている子ども目線で見ている。
 
老いること。生きること。いろんなことを考えさせられる映画だった。ただもう、自分が介護される側に近づいていることも事実で、ここにいた老人目線にも気が向く。明日は我が身か。その時何ができるか。できないか。
 
 
この日、この映画だけではなく、もう1つのプログラムも見た。Bプロの2本だ。『阿賀に生きる』の佐藤真監督による『おてんとうさまがほしい』と『保育園の日曜日』。こちらも貴重な映画だ。前者は照明技師の渡辺生がアルツハイマー病に冒された妻のトミ子さんを撮った映像を佐藤真が構成編集した作品。優しい映画だ。恋愛映画になっている。これは夫から最愛の妻へのラブレターだ。『保育園の日曜日』は楽しいホーム・ムービー。日曜日保育園に子供を預ているおやじたちがここで遊ぶ姿と、ふだんの子供たちの姿を、お遊びのように撮って加工した20分の記録。

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