劇場公開時は見る気がしなかった。まだ若い深川栄洋(当時まだ30代になったばかりだったのではないか)が60歳の初老の男女の恋心を描く映画なんて絶対に説得力がないと思い、敬遠した。だいたいそういう企画に当時は興味を持てなかった。だが自分が定年退職者になってみた今、とても気になってついつい見てしまったのだが、正直言うと、がっかりした。
こんな嘘くさい話を見せられても心動かされない。中心となる3組のカップルのお話が同時進行していくのだが、どのお話にもリアリティを感じなかった。こんなベタな作り話に躍らせれるわけもない。これなら『体操しようよ』のほうがずっとよかった。がっかりである。中村雅俊演じる大手の企業のやり手の管理職が定年で仕事を辞める。彼は再就職して自分を必要としている会社に入り、自由に第2の人生を送ろうと思っている。そこは自分の愛人の会社だ。退職と同時に妻とも離婚して若い愛人のもとに転がり込む。もう、この最初の展開からして、ついていけない。こんなやつもいるだろうけど、何もわざわざ映画でこんないやな男を主人公にしなくてもいいだろ、と思う。まぁ、映画ですから、他人事なので、僕はクールに彼のその後を観察していくけど。
イッセー尾形の魚屋のオヤジ(もと、ミュージシャン)と、井上順のエリート医師(なのに、自分に自信がない)の3人のお話でもある。このふたりの話も、なんだかありきたりで、それはいいのだけれども、そこにリアリティがないのが気になる。原作はノンフィクションのはずなのに、(市井で生きる様々な人たちの書いた「60歳のラブレター」が原作らしい。実体験記なのだ。)それを脚色して、アレンジしたらこんなにも嘘くさくなるってどうよ、と思う。(脚本は古沢良太なのに!)
セカンドライフに向けての夫婦の在り方をさまざまな視点から俯瞰していくドキュメントでよかったはずなのだ。3人ではなく10組くらいの大判振る舞いでよかったはずだ。ワンエピソードが10分程度の群像劇が好ましい。まぁ、それは僕の勝手な感想だから、これはこれでかまわないのだけれど、嘘くさいのはダメです。お話を作りすぎたのが失敗の原因だろう。まぁ、松竹映画なので、甘い映画にしなくてはならなかったのだろうけれど、せっかくの企画がもったいない。
最後のラベンダー畑なんて『幸せの黄色いハンカチ』のパロディですか? あれに感動できるわけはないし。(もちろん、笑えないし。)