かなり攻撃的な小説で今までの柚木麻子とは少し違う。差別、偏見、思い込み。自分でもわかっているけど、無理。無意識のうちにしていること。最初のふたつまで読んでこれは強烈だ、と思った。三つ目で、少しほっとする。相手がちゃんと見えていないから、不安だったり、怖かったり。向き合っているのに、まるで見えていないから、勘違いしていたり。ここに描かれるさまざまなパターンにドキドキさせられる。
いつものように、食がお話の中にはあるが、そこが舞台というわけではない。ある種のコミュニティとそこからはみ出す個人という図式がある。個は周りを敵視したり排除したりする。集団でその孤を反対に排除する。成敗する。そんな感じの話ばかりだから、いささか後味は悪い。またぞろコロナ禍を舞台にしてそれまでの生活が叶わない環境下での話。
最後のエピソードは個と個の話だけど、ここにある悪意もそう。他のエピソードと同じ。ただこれは再生のドラマ。YouTuberの老人と売れない元アイドル中年男が幼稚園の七夕イベントで踊るラストは心地よい。