これには驚く。先に江國香織の『左岸』を読んでいるからこそ、そのテイストのあまりの落差には驚くしかない。2人の男女をそれぞれ主人公にして、同じところをスタートラインとする2つの話は、あまりに別々の世界を作り上げたがためにこの2作品がセットでひとつの小説になるだなんてとても考えられないくらいだ。もちろん別々の作家が自分なりのアプローチで作品世界を作り上げていくのだから、このくらいの落差が出来てもおかしくはないのだが、それにしてもジャンルすら違うものになっているのである。やはりこれは驚きである。
これくらいに自由度の高い仕事をしてしまっても大丈夫なくらいにこの2人のコラボレーションはお互いに対する信頼の上で成り立つものなのだろう。先の『冷静と情熱のあいだ』とはまるで違う試みとなっているのもおもしろい。これは同じ場所に生まれ育った男女がそれぞれ全く別々の道を歩みながら、その人生を全うしていく過程を綴った2部作である。同じ時代を生き、お互いを意識の片隅に置きながらも、別の場所で、生きた2人の基本的には重なり合わない人生の顛末が描かれていく。この『右岸』における茉莉の存在は主人公である九の生涯を貫くのに、反対に『左岸』における九は主人公の茉莉の人生にあまり影響を与えない。なんだか残酷なくらいだ。
『左岸』が江國テイストの集大成のような作品だったのに対して、この『右岸』は辻仁成にとっての新しいチャレンジに見える。祖父江九というエスパーの流転の人生が、『左岸』と同じように身近な人たちの次々に起こる死を通して描かれていく。こちらはSF的な仕掛けが施された壮大なドラマだが、終わって見ると、たったひとりのささやかな男の人生の軌跡にも見えて、結局『左岸』と同じように静かな終末を迎える。ここにあるのが男女の差だなんて思わない。だが、なんだか不思議だ。こんなにも統一感のない2部作というのもそうだが、読み終えると2作はやはり双生児のような作品にも見える。
2人がどれだけ意図的にこのドラマを組み立てたのかはよくはわからないが、2巻で2段組、合計1100ページにも及ぶ超大作は、たった2人の人生が丁寧に綴られたクロニクルであり、人生をそのまままるごと捉えて見せようとする試みでもある。クロニクルと言いつつもドラマ以上に内面の軌跡のほうに重点が置かれてあるからストーリーの波乱万丈が、印象としては前面には出ないのもいい。エスパー九の物語はその奇跡ではなく、彼の傷ついた魂の物語として、静かに読み手の胸に響いてくる。
性描写がかなり露骨でちょっと引いてしまう部分もあるのだが、人間の中にある不思議な力がどんはふうにひとりの男の人生に作用し、それが大きなドラマではなくささやかな物語として収斂していこうとするのもおもしろい。いくらでも大風呂敷を広げることは出来たのだが敢えてそうはしないという選択をしたのは、作品のバランスを著しく欠くことにもなりかねないのだが、間違った選択とは思わない。
これくらいに自由度の高い仕事をしてしまっても大丈夫なくらいにこの2人のコラボレーションはお互いに対する信頼の上で成り立つものなのだろう。先の『冷静と情熱のあいだ』とはまるで違う試みとなっているのもおもしろい。これは同じ場所に生まれ育った男女がそれぞれ全く別々の道を歩みながら、その人生を全うしていく過程を綴った2部作である。同じ時代を生き、お互いを意識の片隅に置きながらも、別の場所で、生きた2人の基本的には重なり合わない人生の顛末が描かれていく。この『右岸』における茉莉の存在は主人公である九の生涯を貫くのに、反対に『左岸』における九は主人公の茉莉の人生にあまり影響を与えない。なんだか残酷なくらいだ。
『左岸』が江國テイストの集大成のような作品だったのに対して、この『右岸』は辻仁成にとっての新しいチャレンジに見える。祖父江九というエスパーの流転の人生が、『左岸』と同じように身近な人たちの次々に起こる死を通して描かれていく。こちらはSF的な仕掛けが施された壮大なドラマだが、終わって見ると、たったひとりのささやかな男の人生の軌跡にも見えて、結局『左岸』と同じように静かな終末を迎える。ここにあるのが男女の差だなんて思わない。だが、なんだか不思議だ。こんなにも統一感のない2部作というのもそうだが、読み終えると2作はやはり双生児のような作品にも見える。
2人がどれだけ意図的にこのドラマを組み立てたのかはよくはわからないが、2巻で2段組、合計1100ページにも及ぶ超大作は、たった2人の人生が丁寧に綴られたクロニクルであり、人生をそのまままるごと捉えて見せようとする試みでもある。クロニクルと言いつつもドラマ以上に内面の軌跡のほうに重点が置かれてあるからストーリーの波乱万丈が、印象としては前面には出ないのもいい。エスパー九の物語はその奇跡ではなく、彼の傷ついた魂の物語として、静かに読み手の胸に響いてくる。
性描写がかなり露骨でちょっと引いてしまう部分もあるのだが、人間の中にある不思議な力がどんはふうにひとりの男の人生に作用し、それが大きなドラマではなくささやかな物語として収斂していこうとするのもおもしろい。いくらでも大風呂敷を広げることは出来たのだが敢えてそうはしないという選択をしたのは、作品のバランスを著しく欠くことにもなりかねないのだが、間違った選択とは思わない。