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映画・演劇のレビュー

『ワルキューレ』

2009-04-01 23:58:43 | 映画
 相変わらずトム・クルーズはとても熱い奴だ。作品の選択に関して、きちんとしたポリシーを感じる。彼が選んだ作品にはハズレはない。きちんとしたエンタテインメントであるという前提で、そこに自分のしっかりしたメッセージが伝えられるものを選んでくる。たまには失敗作もあるが、それでも安易な失敗はしない。

 今回もブライアン・シンガー監督とコンビを組んで、骨太な娯楽大作で見せ場満載の映画を作る。でも、当然それだけでは終わらせない。最大級のヒトラー暗殺事件を取り上げ、自らの正義を疑うことなく貫くドイツ人将校を演じる。ここまで迷いのない熱血漢を描いて嫌味にならないのはトムだからだ。ためらいがない。だから第1級のエンタテインメントとなり、おもしろい。映画の中の周囲の人たちは自らの保身に走ったりするけど、彼は(というか、彼が演じる主人公は、なのだが)まるで少年のように純粋だ。だが、事はそう単純には運ばない。失敗しても懲りずに何度も計画を実践していく様は感動的だ。そしてついに暗殺に成功し、クーデタ-が始まる。ここからは怒濤の展開である。あれよあれよという間に話が展開していく。だがやがてカタストロフィーは訪れる。

 ヒトラーが死んでなかったことを知った時の驚きと絶望。僕らは最初からヒトラーがここでは死なないということを知っているから、映画が悲劇に終わることを前提にして見ている。しかし、彼はこのクーデターが必ず成功すると信じて行動する。この映画のおもしろさはこの落差をしっかり踏まえたうえで作られているところにある。事件を客観的に見ることを計算に入れて話を展開していく。歴史ものはそれが定番だが、この事件ってあまりポピュラーではないから、彼らの計画が頓挫していく過程をドキドキしながら見守ることになる。

 映画はたくさんの人物が入り乱れて話が流れていくのだが、ややこしいことはいらない。この映画はただひたすらトムだけを見ていたならいいのだ。実にストレートだ。ハリウッドスター映画の王道を行く作品である。こういうわかりやすくておもしろいスター映画って最近とんと作られなくなった。スーパーヒーローものさえスター不在の現代に於いて(まぁ『ウオッチメン』のことだが)この潔い映画は孤高の輝きを放つ。

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