習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

劇団せすん『谷底、くつ底、鍋の底』

2014-07-13 22:58:54 | 演劇
 昭和13年、大阪。「のばく」と呼ばれた地域。貧乏人が書割長屋にひしめき暮らしていたらしい。そんな長屋を舞台にして、そこで暮らす落語家と、彼の周囲の人々とのお話である。戦争が色濃くなり、自由が奪われていく中、頑固者の彼が、周囲に押し切られて仕方なく弟子を迎える。弟子入りした彼もまた、融通の利かない男で、そんな似た者同士の師匠と弟子を中心にして、お話は展開する。すべてを受け入れながらも、自分たちらしく生きていこうとするそんな下町の人々の哀歓を描く人情劇だ。

 舞台として設定された「のばく」という場所が新鮮で、そこがもっとリアルに描かれたなら、おもしろかったのに、お話のほうは、そこには拘らず、ありきたりな展開を見せるのが惜しい。なぜ、ここなのか。ここだからこそ、描くことのできる「特別なお話」としての「何か」が描けたなら、すごい作品になったかもしれない。

 せっかくの設定がこれではなんだか、もったいない気がする。あまりに定番で、屈託がない。他ではないこの場所だからこそ生まれるドラマをここに見せてもらいたかった。ただし、ここで描かれる貧しいけれど筋だけは1本きちんと通して、落語家としての矜持を保ち、生きていこうとする主人公たちの姿には納得できるから、見ていて悪い気分ではなかったのだけれど。

 戦時中の不安な時局の中、弟子のところにはちゃっかり赤紙が届くし、生きて帰れるかどうかだからないのに、師匠のもとで働く女の子のほうから告白され、結婚を決意する、とか。暗い時代の中にあって、彼らはノーテンキで明るい。そんな彼らを見ていると、なんだかこっちまで、まぁいいかぁ、という気分にさせられる。決して上手い芝居ではない。しかし、描きたいことはしっかりと伝わってくるから、いろいろ文句はあるけれど、作品自体は、とても気持ちのいい芝居だった。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 真紅組『宵山の音』 | トップ | 『春を背負って』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。