これはあまり大人の手が入っていない作品ではないか。僕が見た今までの「咲くや」の作品には、こういう感じのものはなかったはずだ。それだけにこれは実に、意外で新鮮だった。今回見たHPFの作品の中で、一番高校生らしい取り組みだったのではないか。ここまでの5本はいずれも気合いが入りすぎて、高校生離れしたものが多く、それはそれで面白いし、HPFはコンクールとは違いそういう野心的な作品を奨励してきた。
だけど、無理せず丁寧に、自分たちに出来る範囲で、作るこの端正な作品を見ると、なんだか、ほっとさせられたことも事実だ。台本はよくあるパターンで、こういうミステリ仕立ての作品は多い。それをコミカルに見せるのがよりパターンだが、さすがにそうはしない。
何処とも知れない場所に連れてこられた複数の男女。お互い知らない同士。だが、果たしてそうなのか? 主人公の男は記憶を失っている。そして、やがてすべてが明らかになる。
彼が元刑事で、ある事件があって、それが原因で、この今がある。用意された展開はあまりにありきたりだ。想像の範囲から、一歩も出ない。銃が出てきて、どうこうする、というのも、よくある。(まぁ、少女誘拐監禁事件なのだから仕方ないけど)だけど、拳銃なんかなくても、お話を展開できるはずなのに、安易にそうすることで、さらにわかりやすい展開になる。
ここには驚きは一切ない。想像の範囲内できちんと収まる。描き込みが出来てないから、明らかになってから(!)の彼らの関係性も、事件の全容も曖昧だ。50分という上演時間は内容から考えて妥当だと思うけど、せめてパンフに書かれてあるような個々の設定、情報は芝居を見てもわかるように作って欲しい。妻が小学校の教師だったなんて描かれていたっけ? 千葉県警であることに何の意味があるのか、とか。犯人と真犯人との関係とか、少女がなぜ、父親から疎まれていたのかとか、とか。
そんなこんながちゃんと描かれたなら拳銃なんか出てこない何の変哲もないドラマでも、ドキドキするものになったはずなのだ。真面目にきちんと作られてあるだけに、残念だ。