こんな小さな話でいい。この若い監督は自分がやりたいものに誠実に向かう。小さく収めようとするんじゃない。小さな世界を大切にするんだ。90分という上映時間もそう。スクリーンサイズにスタンダード・サイズを選んだのも。もちろん登場人物の少なさも。これは『僕はイエス様が嫌い』で第66回サンセバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を受賞した奥山大史が今回も監督・脚本・撮影・編集を手がけ、池松壮亮を主演に迎えて撮りあげた商業映画デビュー作。
お話は小学6年の男の子が、年上の女の子を好きになる話。たったそれだけ。フィギュアをする彼女に見惚れて、自分もフィギュアを始める。彼女のコーチ(池松)が彼にフィギュアを教える。やがて、彼女とふたりでアイスダンスのペアを組むのだが。
コーチとふたりの子どもたち。たった3人だけの世界。だけど幸せな時間はいきなり、簡単に、壊れてしまう。ほんの少しの綻びが致命的な決裂になる。3人のそれぞれの想いが交錯して、破滅に至る。多くを望まないけど、何かが決定的瞬間作用して終わる。誰が悪いとかいうことではない。彼女を責めることはできないし、彼女の気持ちをコーチは受け止めることはない。少年の想いを彼女が受け入れられないように。
なんて切なく哀しいことだろうか。だけど3人とも何も言わない。言い訳もしないし、怒りをぶつけたりもしない。少年はやがて中学生になる。コーチは町を出て行く。ふたりの別れのシーンが素晴らしい。3人で行った湖に行く。あの冬そこでアイスダンスの練習をした。だけどこの春、ここでふたりはキャッチボールをする。無言でいつまでも投げ合う。さらにはある日、彼は彼女とすれ違う。 映画のラストシーンだ。心震える。
吃音を抱え、上手くしゃべることができない彼を主人公にして、それを全面に押し出さない。大事なことはそこではないけど、そこを起点にして映画は始まり、終わる。先日見た『ぼくの生きてる、ふたつの世界』のコーダであることと似た設定だな、となんとなく思う。たまたま続いて見たこの2本は、ここまでの今年一番の映画だ。