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映画・演劇のレビュー

『屋根裏部屋のマリアたち』

2014-01-09 21:31:36 | 映画
フランスのコメディとした宣伝されるが、この素敵な映画をただのコメディタッチの恋愛映画だなんて思わないほうがいい。まぁ、フランス映画らしいエスプリの効いた作品ではあるけど、このささやかなお話が、とても心に沁みてきた。とてもいい映画だ。映画を見ながら、こんなふうに生きたいと、思う。当たり前なんてものはない。既成の価値観に躍らされて、本当のものを見ないような生き方だけはしたくない。

1962年、パリを舞台に、高級アパルトマンに暮らすブルジョワ夫婦とスペイン人メイドたちが織りなすドラマ。ファブリス・ルキーニが演じる悩める中年男が主人公。彼はスペインからやってきた若いメイドに心魅かれる。彼は裕福で美しい妻もいる。だが、それを厭らしい恋と思ってはならない。そうではなく、彼は彼女と出逢うことで、今までの自分が生きてきた世界の価値観を覆されることに感動しているのだ。恋なんてのは、後から付いてくるだけ。

マリア(映画のタイトルでは「マリアたち」と単数ではないのがいい)と出逢い、彼女の生きている世界を知る。高級マンションでの何不自由のない暮らし。親の遺産もあるし、仕事もある。貧しい生活なんか知らなかった。でも、そこには本当の自由はなかった。知らないことだらけだったことを知る。そんな彼の姿を映画は軽妙なタッチで追う。何度も言うがこれは恋愛映画ではない。

屋根裏部屋で暮らすメイドたちと出逢い、彼女たちの生活を知り、そのひどい環境を改善していき、彼女たちから感謝され、でも、それがただの善意からではなく、自己実現につながっていく。感謝したいのは彼のほうだ。彼女たちと同じように屋根裏部屋の狭い一室で暮らしながら、彼は人生で初めての本当の自由を得る。何が正しくて何が間違いであるのかなんてわからない。ただ、本人がそれでいい、と思えたならば、それが一番なのだろう。スペインからの出稼ぎ、内乱でひどいことになった国に家族を残して、生きていくために、フランスにやってきた底抜けに明るい女たち。価値観の違うもの(と、いうか、生きる場所の違いか)がお互いの生活を共有して、理解しあうという図式が心地よい。

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