これは今年の3月、大阪アジアン映画祭に出品された作品。監督・脚本は長編デビュー作『浜辺のゲーム』で注目を集めたという夏都愛未。彼女の映画を初めて見る。
とても刺激的な映画だった。何も語らないから、必死になって見つめていくことになる。人間関係がわかりにくい。説明がないまま、どんどん展開していくからだ。主人公の響子(松井玲奈)が東京での女優活動を辞めて、福岡にやってきて再就職をしようとする。病気の治療と忙しい毎日に疲れたから。
さらには実家が残してある(母が死んでから家族はいない)故郷の佐賀に戻って来る。福岡でも佐賀でもいい、とりあえず九州で再出発しようといている。
そんな彼女のストーカーをする女と、彼女の伯母が引き取っている高校生。この3人を中心にして、さらに周囲のさまざまな人たちも絡めてかなりの群像劇として描く。
やがて3人が実は異母姉妹だということが明らかになっていくが、そこをドラマチックに描くわけではない。それどころが、わかった時のリアクションはあまり描かない。彼女たちが知らなかった事実をどう受け止めているかはわからないけど、想像するのは興味深い。というか、わからないままではこのお話はホラーですらある。彼女たちが何を考えて行動するのか、わからないから不安なまま、話は意外な方向へと流されていく。
さらにはサイドストーリーでしかないはずの3人の周囲の人たちが3人と変わらないくらいに尺を使い描かれていくから、ますます映画は迷走し混迷を深めていく。出口の見えない迷路に迷い込んでしまう。響子が夢の中で見る緑の森がそれを象徴する。
さらには彼女が幼い頃痴漢に遭ったこと。その原体験は彼女のトラウマになっていることも描かれる。性に対する恐怖と嫌悪は父親が母だけではなく他の女に子どもを産ませていたこととも繋がる。今頃になって現れた異母妹の存在。さらには狭い友人関係も絡めて(しかも、異母妹たちの交友関係まで描くし)複雑だけど、それがどう影響していくかも曖昧なまま、ラストを迎える。
響子が昔付き合っていたチャラい男が、いい味を見せてくれる。登場人物は彼と高校生の妹の彼以外(彼がレイプされ、麻薬売買に引き込まれていくエピソードには唖然)は女性ばかり。いろんなエピソードはとっ散らかしたままで収めない。映画は破綻している。だが、その破綻を僕は(監督の夏都さんも、たぶん)楽しんでいる。このわけのわからないざわめきに導かれ、まさかの旅をする2時間はとても刺激的だった。