新しいターザン映画が誕生した。『グレイストーク』を超える映画を期待したわけではないけど、ジャングルから始まるのではなく、グレイストーク卿が再びコンゴに戻るお話、というところが興味深いと思った。監督はダークファンタジーになった『ハリーポッター』の終盤戦を担当したデイビッド・イェーツというのも心魅かれる。軽薄なトーンではなく、重くて暗いタッチで始まったのもよかった。
知性と品性を備えた英国紳士が、ジャングルの王者として現地の人たちや、動物たちに尊敬され、彼らのために戦う。単純な映画なのだが、リアルな設定と描写で、決して安直なアクション映画にはしないのがいい。上半身裸になかなかならないのもいい。雄叫びもなかなか上げないし。でも、ちゃんとターザンコスチュームにもなるし、雄叫びも上げて、飛んで跳ねてジャングルを走り抜けるし、期待を裏切りはしない。
単純なストーリーだけど、驚くべき技術とビジュアルで、スタイリッシュな映画に仕上がった。森の中で木々を縫って蔦を渡るシーンも素晴らしい。よくある単純アメリカ・アクション映画ではない。マーベルコミックに洗脳されたヒーロー物とは一線を画する。ビジュアルはストーリーを生かすためにある。そんな当たり前のことに改めて気付く。
『シン・ゴジラ』のように驚くべきストーリーを提示するのではない。これは想像の範囲内だ。だが、それがこの場合は心地よい。さらわれたジェーン(妻)を助けるためなのだが、感情的になるのではなく、冷静に理知的な行動を取り、クリストフ・ヴァルツ(!)演じる悪の官吏と戦う。手に汗握る活劇という部分は譲らないけど、こんなにも静かな映画になっていることに驚いた。クールなターザンなんて、誰が想像しただろうか。でも、そんなのをちゃんと実現したのだ。そんなマッチョなのに、知的という難しいキャラクターを体現したのはアレクサンダー・スカルスガルド。わたし脱いだら凄いんです、って感じ。ムキムキ。なのに、バカっぽくない。「この夏、一番の爽快感を、あなたに」というコピーはぴったり。だけど、まるで劇場にはお客さんがいなかった。今、こういう映画は、残念だがそっぽ向かれる。