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映画・演劇のレビュー

『うつくしいひと』

2016-08-06 19:48:24 | 映画

 

熊本県が製作した中編映画。行定勲が監督を依頼された。キャストは熊本出身の役者を集めた。こういう作品が作られるのは好ましい。行政がPRを兼ねて制作し、それが結果的に観光に寄与し、地域の活性化にも繋がればよい。今までもたくさんの地域発の映画は作られてきた。行政が積極的に誘致するパターンも多い。だが、今回のように自分たちが自ら製作する本格的なプロ仕様の作品というのはめずらしいし、期待も大だった。

 

それだけに、出来あがったものを見た時の失望も大きい。どうしてこんな緩い映画にしたのだろうか。手を抜いたとしか思えない。たとえ、くまモンを登場させること(くまモン失踪事件!)が義務付けられたとしても、ここまで説得力もリアリティもない映画にする必要があったのか。行定勲監督作品というのもはばかられる。40分という上映時間は確かに短い。しかし、その尺でも優れた映画はたくさんある。自分だって以前、同じような長さでオムニバス作品の1本を手掛けているのだから、今回の作品を長さのせいにはできまい。

 

高校時代の8ミリ映画に秘められた想い。ずっと故郷である熊本を離れていた男が、帰ってきて、想い出の女性に会う。それだけのお話で充分なのだ。男は夢を叶えて今では映画監督になっている。念願の企画である漱石の『草枕』の映画化を実現し、その撮影を故郷で行う。今回の帰郷はそのためのロケハンでもある。

 

ひとりの女性と出会う。たまたまなのか、探し出したのか。自分の過去を明かさないまま、彼女と1日を過ごす。それだけのお話だ。悪くないストーリーラインであろう。

 

主演は橋本愛。映画監督の役はなんと姜尚中である。もちろん映画初出演。高良健吾と石田ゆりが脇を固める。(というか、このふたりがあまりよくない)

 

熊本への愛が溢れる映画を作ろう、という企画意図はすばらしいし、このお話でいい。それだけにこの中にはある種のリアリティが欲しい。感傷的な映画でいいのだ。高校時代の恥ずかしい初恋を忘れられない初老の男のセンチメンタル・ジャーニーでいいではないか。黄金の三角関係も悪くない。伝えきれなかった切なる想いを今も秘め続ける。ええかっこしいのおっさんの話。充分なのだ。でも、そんな感傷を成り立たせるだけのものが欲しい。

 

美しい風景なら、ここにはちゃんとある。それだけに、せっかくの企画なのだ。ちゃんとうつくしいドラマもそこに見せて欲しかった。愛おしい気持ちになる作品。抱きしめたくなるような映画。そうじゃなくては、この映画を見て自分も熊本を訪れたいとはなるまい。


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