習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『明日へのチケット』

2007-06-02 08:48:02 | 映画
 ヨーロッパを代表する3監督が(キアロスタミはアジアかぁ!)オムニバスとはいえないくらいに自然なタッチで1本の映画に競演する。ローマに向かう列車の中で乗客である3組の主人公たちが、感じたことや、どうでもいいようなこと、更には出くわした事件などが綴られていく。エルマンノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、そしてケン・ローチ。全くタッチが違う3人が1本の映画で出会う。

 老教授のささやかな恋を描くオープニング・エピソードは短いカットを積み上げて、列車に乗り込みそこで、感慨にふける彼と、その周囲のざわめきを対照的に捉え、テンポよく見せる佳作。ほんの一瞬、現地で世話をしてくれた女性との出会いと別れを振り返りながら、感傷的になる老人。これは恋なのか、と彼は思う。旅はいつもこんな感傷を生む。いくつになろうと同じなのだろう。オルミらしいとてもよく出来た短編だ。

 次のエピソードはとてもわがままな金持ちの中年女性と彼女の世話をする男の話。彼らの背景が描かれないから、なぜ2人がこんなふうにして一緒にいるのか、わからないし、最後で彼女を男が置いていってしまうのも、突然すぎて少し驚く。キアロスタミはいつも事細かな説明なんか抜きにして見せる。一つの状況を丁寧に見せるのだ。

 ケン・ローチはセルティックファンの3人組がチャンピオンズ・リーグに出場するチームを見るためにローマまでなけなしの大金をつぎ込んで乗り込む姿を描く。列車の中から大いに盛り上がる。もちろん家からずっとユニホーム着用だ。万全の構えである。なのに、列車のチケットがなくなった。盗まれってしまったのだ。彼らには余分のお金なんかない。盗んだのは親切にしてあげたアルバニア移民の家族の少年とわかる。しかし、彼らの不幸を思うと返せとは言えない。とてもわかり易く単純な話だ。ローチはこのエピソードを軽やかに見せて1本に纏める。ローマ到着、3つのエピソードのそれぞれの結末を見せて、最後に走り出す3人組の姿を追うラストシーンはとても爽やかで楽しい。

 こんなにも幸福な巨匠たちの競作が実現したことが嬉しい。彼らはお互いを信頼し、この1本を共同監督した。凄いことだ。 

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