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映画・演劇のレビュー

『歌謡曲だよ、人生は』

2007-06-06 06:21:43 | 映画
こんなにもバカバカしくて、いい加減で、自由奔放な映画を作っていいのだろうか。無節操で、おふざけが過ぎるし、オリジナルの歌謡曲に対してのリスペクトがまるで感じられないものすらある。だけれども、少なくともこの12曲の提供者は誰も怒ることなく、この映画化作品を認めてくれたことは事実であろうから、作者たちの無謀な冒険が、広い心の持ち主であるオリジナル歌謡曲の作者たちの愛に支えられて、実現可能となったことを心から喜びたい。

 10話からなるオムニバスである。さらには、オープニングとエンディング(この部分もちょっとした作品になっている)の2曲分も追加して12曲をテーマにした壮大な叙事詩となっている。描くは昭和時代である。60年代を中心にして、高度成長期の日本を、現代の地点から撃つ。これはノスタルジアでは決してない。ノスタルジアならあの原始人の話とか、OLたちを血祭りにする話とか、ありえないようなエピソードが混じっていては困るはずだ。

 明らかに全体のバランスを欠くエピソードが山盛りになっている。なのにゆるぎないのは、ポイントポイントをしっかり抑えてあるからである。全体の構成が素晴らしい。そして、しっかりと昭和の歌謡曲を中心に据えてそれぞれのエピソードが作られている。それが約束事項として守られているから揺るぎないのだ。第1話、6話、10話の3つがしっかり昭和の臭いを感じさせられるものになっていて、そこではストーリーよりも、時代の雰囲気を伝えることのみに腐心する作り方がなされているのがいい。磯村一路、水谷俊之というこのメンバーの中ではベテランであり、今回のプロジェクトの中心人物が、要所をしっかり締めた功績は大きい。この2エピソードがあったから、最後で、明確なテーマを打ち出すノスタルジー臭ぷんぷんの若手おさだたつやの10話が上手く収まったのである。

 50代前半の9人の男女が集まる。40年ぶりの同窓会。懐かしい小学校の木造校舎。校庭に埋めたタイムカプセルを掘り出す。そこから出てきたのはあの日の幾つもの思い出。そんな中にはあの時撮った8ミリ映画のフイルムもある。夜の教室に集まり、それをみんなで見る。幼い頃のみんなの顔がそこにはある。それを見る今の顔との対比も素晴らしい。そんな中、8ミリ映写機のカタカタという音が郷愁を誘う。

 少し遅れてやってきた高橋恵子を主人公にして、40年の歳月を経て再び集う懐かしい仲間の、それぞれに、これまで生きてきた人生を刻み込んだ顔が素敵だ。大人の役者たちをこれだけ集めてこんなに贅沢な映画を作るなんてとんでもないことだと思う。それをこの映画は可能にしている。烏丸せつこ、松金よね子、キムラ緑子、本田博太郎、鈴木ヒロミツ、村松利史、北見敏之、田山涼成。このメンバー全員の名前を見ただけでこの映画の雰囲気は伝わるはずだ。ラストの夢オチなんてのまで、愛おしい。短編だからこそ可能なオチである。

 個人的には8話の『乙女のワルツ』と9話の『逢いたくて逢いたくて』が一番良かった。8話の感傷は笑えるし、矢口史靖の9話はとても爽やかな青春映画になっている。ベンガルの純情とそれにほだされる妻夫木聡、伊藤歩のカップル。ラストの自転車での疾走シーンがいい。

 エンディングの『東京ラブソディー』なんてきちんとカラオケよろしく字幕まで出てくるので、思わず声をだして一緒に歌ってしまった。瀬戸朝香のバスガイドと田口浩正の運転手に導かれて21世紀の東京をハトバスに乗り、観光していくという見事なエンディングだ。

 レトロなんて通り越して映画館の遺跡と化した千日前国際劇場の大スクリーンでこの映画は上映している。今ではもう大阪の繁華街にはここしか昔ながらの映画館は残っていない。全てがシネコンと化してしまった。もう誰もこんな古い劇場に映画を見に来ない。700席もある千日前の大劇場なのに、しかも土曜の最終回というのに、たった5人しか、客はいなかった。僕の他の人はみんな50代以上の人たちばかりで、うら寂しい劇場は、まるで70年代のように、閑古鳥が鳴いていた。

 こんなに素敵な映画なのに、悲しい。大ヒットして欲しいとは思わないが、それにしてももう少し何とかならないものだろうか。
 

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