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映画・演劇のレビュー

『ひまわりと子犬の7日間』

2013-02-10 22:34:11 | 映画
 また、動物ものか、しかも、またまた犬か、と食傷気味で、見始めたのだが、しばらくすると、これは従来の犬とその飼い主の愛情物語とは、まるで違う作品だということに気付く。新鋭、平松恵美子監督は、このシビアなお話を、『ハチ公物語』から連綿と続く松竹の愛犬物の歴史の先に、何食わぬ顔で作り上げた。なんてしたたかなんだ! 昨年、彼女は、山田洋次監督に師事し、『東京家族』を書きながら、その裏で、この映画を作っていたのだ。堂々たるデビューだ。

 野犬の処分をテーマに据えた。しかも、かわいい犬の可哀想なお話ではない。もちろん、安易なお涙頂戴の愛情物語でもない。主人公の保健所の職員と、野犬として、保健所に連れてこられた犬との、戦いのドラマだ。3匹の生まれたばかりの赤ちゃんを守るために母犬は、人間に牙をむく。彼女は絶対にに子供たちから離れない。もちろん、彼女たちを捕えた人間を信じない。

 彼女の不屈の闘志と、そんな彼女と向き合い、何とかして、彼女と心を通い合わせようとする堺雅人。この両者の戦いの記録だ。彼らに与えられた時間はたった7日間。それが、捕えられた野犬を保健所で預かることが可能な時間だ。そこまでで、飼い主が見つからない場合は、処分される。(でも、彼はすこしズルをするのだが、それでも決して十分な時間はない)

 母犬は絶対に心を開かない。どうする、堺雅人! ほのぼのとした映画を期待して劇場に来た観客の度肝を抜くような映画である。とは言え、これは過激な映画ではない。表面的にはファミリー映画の体裁を持つ。父親と、子供たち、犬、というパッケージングは従来通りだし、映画は、決して、とんがったものではない。ただ、描かれる内容や、描き方は、甘く優しいというわけではなく、とてもリアルなのだ。無理してではなく、自然体でそれをやっている。そこが平松監督のすごさだ。ぬるい映画を期待していくと、大火傷を食らうこと間違いない。心して、行くように。でも、見終えると、とても素敵な気分にさせられる。ラストはさすがに、松竹映画なので、しかも、家族映画なので、予定調和にならざる得をないけど、大事なのは、そこに至るドラマなのだから、これでいい。


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