公開から1か月、やっと見ることができた。塚本晋也監督最新作。前作『野火』の続編のような映画になっている。時代劇なのだけど、戦争映画だった前作と同じテイスト。どちらも極限状態の人間の姿が描かれる。極限はどちらも「戦争」によって形作られる。
しかも、今回の作品は塚本版『七人の侍』でもある。ならず者たちから農民たちを守る男の話だ。だけど、彼は戦わない。人を斬れないのだ。凄い剣の使い手ではある。だが、その刃を人に向けたことはない。刀は抜かない。木刀で戦う。それでは、勝てない。黒沢時代劇の対局を行く作品だ。
ほぼ全編がモノクロのような暗い映画で、彼の心情が投影されている。映画館で見ても、よくは見えないシーンもある。登場人物も少ない。主人公の池松壮亮はほとんどしゃべらない。蒼井優はどなっている。塚本晋也も物静かだ。前田隆成(今回のウイングカップに参加している!)は激しい。静と動の2組が主要人物で、後は農民たちとならず者集団というシンプルさ。
カタルシスはない。もどかしさなら全開だ。見ていてイライラする、という人もいるだろう。だが、そんなこと承知の上でしている。そして、それがこの映画の凄さだ。こんなにも緊張を強いる映画はない。さまざまなことを考えさせられる。たった80分の映画なのに、ここまで疲れさせられるなんて、想像もしない。でも、僕たちはもうすでに『野火』を見ているのだから、想像は十分ついたはず。なのに、これには驚かされる。想像以上の衝撃だ。
戦乱の続く世界で、人はどう生きるべきか、なんてことを、突きつけられる。だが、そこには紋切り型の答えなんかない。綺麗ごとでもない。刃を突き付けられる。逃げ場はない。この激しく、残酷で、哲学的でもあり静かな時代劇が「今という時代」に向けての塚本晋也からのメッセージでもある。身を切る痛みを伴う映画である。これは間違いなく2018年を代表する1作だろう。