習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

虚空旅団『学習図鑑』

2010-02-04 21:08:02 | 演劇
 扇町MSで初めて遊◎機械/全自動シアターを見てから、もう20年くらいが経つ。時の経つのはほんとに早い。あの時見た芝居は『僕の時間の深呼吸』だ。とてもおもしろかった。

 でも、正直言うとあの頃は面白い芝居がたくさんあったから、当時はあれを特別凄いとは思わなかった。同時期に見た自転車キンクリートなんて、つまらないとしか思わなかったくらいだ。まぁ、感傷に耽っていてもしかたないが、あの頃は凄かった。あの頃見た芝居が好きだった。八〇年代、青い鳥の芝居に夢中だった。野田秀樹や鴻上尚史、如月小春に渡辺えり子等々。みんな凄かった。どんどん凄い芝居が大阪に押し寄せてきた。そんな時代だった。

 それが今回の企画のラインナップに上がっている面々だ。彼らの芝居を見て、小劇場の魅力にとりつかれていた日々。でも、今はもうそんな熱気はどこにもない。自分も歳をとってしまったが、芝居も変わってしまったのだ。

 今、このとてもウエルメイドな『学習図鑑』を見ながら、僕のテンションがこんなにも「だださがり」なのは、今日の天気のせいばかりではない。(日曜日は雨だった)

 今回演出を担当した高橋恵さんはパンフにも書いているが、もの凄く丁寧にこの作品を再現しようとしている。だが、あの頃の気分までもは再現できない。だって、僕らの気分が変わってしまったからだ。演劇高校生はこの「山田のぼるくんシリーズ」が大好きで、HPFでは、毎年何本もの遊◎機械の作品が上演されてきた。しかし、最近では、高校生も取り上げなくなってきている。時代が変わってしまって、山田くんのようなひたむきな少年はもう存在しなくなってしまった。もし、今、山田くんのような少年がいたなら、きっと学校には行かない。たとえ弱くても、前を向いて時代と、現実と、向き合う。そんなことは当たり前のことだった。だが、今はそうではない。簡単に逃げ出してしまっていいし、世の中もそれを受け入れてしまうから、誰も戦ったり傷ついたりはしない。傷つく前にいなくなっている。

 こんな時代に山田のぼるくんはもう存在しない。ここにいる彼は幻でしかない。この八〇年代の幻を見つめながら、この芝居自体も今という時間から完全に切り離されてしまい、無菌状態で培養されたものに見えた。出てくる時事ネタとか、芸能人とかも当時のままになっている。

 これはつまらない芝居ではない。先にも書いたように実に丁寧に作られてあり、好感が持てる。だが、その分おとなしすぎる。毒はない。それになんだか華がない。それは高橋さんの芝居作りの特徴なのかもしれない。悪い意味ではない。彼女はメリハリとか、ハッタリとかが嫌いだ。誠実に芝居を作ろうとする。それは今回も同じだ。その分遊びが足りなくなる。この芝居に必要なのは、遊び、である。なのに真面目に対応するから、芝居に余裕がなくなる。




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