昭和9年末、勾留中の河上肇の留守宅。6人の女たちのある日の物語。2幕はさらにその3日後。これは主人不在の河上家の女たちのお話。2幕2時間10分。途中10分の休憩を挟んで、堂々とした芝居。オーソドックスで完璧。老舗である劇団大阪だから可能な芝居を、狭いけどホームである谷町劇場という空間を最大限に生かして作り上げた佳作。
この作品を僕はこれまでに2度、劇団息吹、そして昨年のきづがわの公演で見ている。だから3度目なのにまるで初めて見るくらいに刺激的だった。それは役者たちの頑張りによる。劇団大阪の女性たちによるこの作品のよさは、まず6人のひとりひとりが輝いていることだ。お話(台本はもちろん井上ひさし)よりもキャラクターで見せる芝居になったのがよかった。演出(熊本一)の期待に応えた彼女たちの健闘を讃えたい。特筆すべきは山内佳子。留守宅を守る主人を見事に体現した。夫不在の不安を抱きながらも泰然としてここにいる。ここで帰りを待つ。そんな覚悟を静かに見せた。だからここにいる5人の女たちは安心してこの不安な時代と向き合うことが出来たのだ。
誰もいない家に上がり込んできたかつてここで15年を過ごしてきた女中,田中美代(なかたさゆり)。彼女がやって来るシーンから始まる。さらにふたり。不在の家族を待つ(一応)お客である3人のやりとりから芝居は始まる。テンポよく軽快に始まり、ようやく家の人が戻ってくる。まず、娘と若い女中。そしてようやく留守宅を守る河上肇の妻、ひで(山内)も登場して6人が揃う。
ここから話は本格的に始まる。重くもなく、軽いわけでもない。絶妙なバランスで淡々と進行してくる。正しいことを貫き通すことが困難な時代にそれでも自分を曲げない女たち。家という砦に集まって身を寄せ合いながら、「正しい」を貫く。そんな女たちの戦いが胸に沁みる。
劇団大阪のwomen'sが、まず新しい劇団大阪の在り方をここに指し示したスタートとなる第一歩だ。来月には男性陣による第2歩『エダニク』公演が控えている。さらには11月、第90回本公演『親の顔が見たい』も控える。新しい劇団大阪の快進撃が始まった。この先も期待したい。