高橋源一郎の新作である。毎日新聞の人生相談で毎回辛辣なお答えをして相談者を一刀両断にしている(というか,ケムに巻くというか)高橋源一郎だ。
これは天皇ヒロヒトを描く超大作である。まさか800ページに及ぶ(少し盛りました。650ページです)分厚さ。重い。しかも字が詰まっているし、難しいし、さまざまな文献引用も山盛り。だから適当に読み飛ばしながら読んでいるフリをして、読んだ。
クマグスと会いに行く冒頭のシーンから始まって、いきなり漱石登場、さらには広島に原爆が落ちるし、さぁ大変。
2章に入ると関東大震災。金子フミコの話になる。彼女の怒濤の人生が描かれる壮大なロマンだ。もうひとりのフミコも登場する。(フミコ・ハヤシ)終盤に鷗外が登場してヒロヒトと会う。彼にラジオを与えてDJというものを教える。
さぁここからがクライマックスだ。3章『ぼくらは戦場に行った』に突入。武田泰淳の話から始まる。盧溝橋事件、中国に舞台が移る。古山高麗雄、井上靖と主人公を経て、第4章、戦争ミュージカル「南太平洋」に至る。MYという女の話になる。ここからがお話の本題となる。前章はクライマックスと書いたが、予告編に過ぎなかった。あそこまででまだ350ページ。本題である4章は悠に300ページはある。そして中島敦が登場する。ナウシカさんも登場して腐海に挑む。やがて、パラオでDJのラジオ放送が始まる。過去と現在が混在して存在する時空を駆け抜けてパラオのオールナイトニッポンは流れる。フクナガ、ナカムラが牽引したミュージカル南太平洋。
南洋での出来事、731部隊の話、従軍慰安婦、盛りだくさんの後、ラストは1975年、ホスピスにいる年老いたMYのもとに向かう。そして、エピローグはヒロヒトがDJブースに入り放送開始する場面だ。この壮大なドラマはまだまだ続く。
歴史上の人物が大挙して登場して、彼らのドラマはヒロヒトの時代の歴史と呼応する。昭和であり、その中心には戦争がある。ヒロヒト天皇が何かをするわけではない。彼が生きた、彼が見つめたところのものが、さまざまな人たちの視点から自由自在に描かれていく。こんなめちゃくちゃな歴史書はない。